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無かった事にしてえぇか?
か。
まぁ、そうだよね?そうしたい気持ちは解る。
彼氏が居る時点で、私は恋愛対象外だし。
本当なら、店にだって来たくは無いんだろうってのも解る。
ただ、うちの店の味が好きなだけ。
だから、無かった事にしたい。
うん。
当然よ。ソレが普通。
私だって、そもそも、言おうと思って言った訳じゃないんだし、無かった事にして貰った方が有り難い……。
「……、っ」
蓮さんも帰って。
誰も来ない店内。
吹雪の、風の音だけが煩い中、
失恋して、初めて泣いた。
どこが。なんて言えないけど、好きだった。
彼氏が居ると言われても、失恋してると解っていても、そう簡単に好きは消えない。
誰も居ないから交わせた会話が、嬉しかった。
「……要らないってのと、同じじゃない」
無かった事にしたい。
ソレって、好きの返品じゃない。
場所も取らない、忘れてしまえばいいだけの「気持ち」は、受け取っても貰えなかった。
その場に座り込んで、溢れてくる涙がどんどんスカートに染みを作る。
CLOSEの看板を出したから、もう誰も入っては来ないし、涙を拭うと目が痛いから、そのままただ涙を零す。
泣き飽きたら、片付けて帰ろう。
ついでに明日は休もう。
明日も吹雪って天気予報でも言ってたし、10日後に改めて失恋した痛手を癒そう。
大丈夫。
大人だもん。
明日と明後日で失恋に浸って、後は気持ちを切り替えよう。
コレだってお給料貰ってる仕事なんだから、オトナとして、ちゃんと仕事として彼を迎えよう。
「……カレー、作らなきゃ」
今迄通り。
お客様と店員。
「大丈夫」
無かった事になっただけ。
その方が、私だって仕事がし易い。
私は告白をしなかった。そして、彼は告白なんて聞かなかった。
何てシンプル。
* * *
週の真ん中、水曜日。
明後日は金曜日。
うん。
そりゃ、そうよ。
カレンダーはいつだって、この順番。
ちゃんと、平静を装えるか、不安。
いや。
大丈夫よね?
だって、お客様と店員に戻るだけなんだから、今迄、一度だって会話なんてしてなかったんだし。
ソレに戻る。って事でしょ?
先週は、たまたま吹雪でお客さんが居なかっただけだもん。
もう3月も終わる訳だし?
また吹雪の金曜日が来る筈もないし。
今週は、彼氏さんも一緒かもだし。
「……、アカネ、ちゃん?」
ん?
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