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神隠し。
都市伝説研究サークルの棚に並べられた一冊のファイルを手に取り、該当のページを開く。
無数の新聞のスクラップが貼られ、その隙間には細々と文字が並べられている。
新聞記事は全て周辺で起こった行方不明事件を取り上げたものだ。
大学からそう遠くない範囲で、その地域にはかつてから行方不明事件が多かった。
消えた人間はある時ふらりと戻ってくる事があり、しかし何故しばらく姿を消していたかは決して語らないという。あくまで噂には過ぎないが。
倉阪大学二年、鏑木桔梗(つみきききょう)は、自身の所属する都市伝説研究サークルにて深く溜め息をついた。
高校時代から都市伝説やその類いの怪談に深く興味を持ち、大学でもそういったサークルを見つけて即座に飛び込んだ彼だが、何も毎日のように都市伝説の研究に励んでいるという訳ではない。
積み重なる講義や課題、更には少しのアルバイトの合間に暇があれば顔を出す程度。高校時代とはまた違った多忙な日々が、彼からかつての情熱を奪い去っていた。
そんな彼が何故今更、サークルに納められた研究ファイルを漁っているのか。それを不思議に思ったのか、珍しそうにしげしげと見つめていた一人が、桔梗がファイルを閉じたのを見計らい声を掛ける。
「おや鏑木君。珍しく来たと思ったら、何を調べているのかな」
「……ああ、枕芭さん」
にやにやと笑いながら桔梗に歩み寄るのは、サークルの一室の住人と評されるサークルメンバー、枕芭夢美(まくらばゆめみ)三年。
暇人なのか、それとも余程このサークルが気に入っているのか、桔梗が顔を出せばいつもいる人だ。
すらりとした長身で、スレンダー。髪はナチュラルな黒、腰元まで伸びる長さだが、手入れが行き届いているようで艶やか。綺麗な人だが、露出が少ない地味な色のセーターや少し古くさいロングスカートをいつも身に着けているせいか、地味な人という印象が強い。
枕に夢と、眠りを連想させる名前によく似合う、青縁の眼鏡から覗く眠たげな半開きの瞳がとても印象的で、桔梗もすぐに名前を覚えられたと記憶している。
口調もやはり眠たげで、のらりくらりとした人だった。
「『神隠し』に興味でも? いや、覗いていた訳じゃないが」
どうやらファイルを見ていたらしい。特に隠す必要もないので、桔梗も素直に頷いた。
「ええ、まあ」
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