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夢美はふむ、と顎に手を当てた。
「そう。しかしまた突然だね。随分前からあるネタだし、最近話題になる事件があった訳でもないのに」
都市伝説研究に興味を持つ者が集まるサークル。更にその積極的な参加者ともなると、好奇心は人一倍らしい。勘ぐり探りを入れてくる夢美同様に興味を抱いたのか、サークル部屋にいた他の人間も寄ってくる。
「『神隠し』がどうしたって?」
同じく三年、獅堂聡(しどうさとし)がくいと眼鏡をつり上げて歩み寄る。短めの茶髪に小さめのピアス、どこかの雑誌で見たような装い。180センチの桔梗が見下ろすくらいの身長は、彼のコンプレックスだという。小柄ながら身なりには気を遣っているような彼が、実質現在のこのサークルを仕切っている代表である。
「久しぶりに来たと思ったら、『神隠し』を調べてるの?」
更にもう一人歩み寄るのは同い年。
獅堂と同じくらい、160センチほど。長く着慣れているらしい可愛らしい花柄のワンピース。飾り気も化粧っ気もない、服装からしても若干子供っぽい女の子。高校生どころか中学生と間違えられた事もある童顔。その小さな顔を包むセミロングの黒髪を指先で掻き上げ、桔梗の幼馴染みの安納美智(あんのうみち)は桔梗のファイルをひったくった。
三人に興味津々に詰め寄られると、はぐらかすのも難しい。
しかも好奇心旺盛な三人が相手となると尚更だ。この三人を相手に適当に誤魔化すか、それとも事実をそのままに話すかを天秤にかけ、桔梗は後者を選んだ。
桔梗の事情は嘘を吐いてまで隠す事でもなかった。
「……いや。アパートの隣に住んでる人が、『神隠し』にあったみたいで」
桔梗は事の発端を話し始めた。
桔梗は大学近くのアパートにて一人暮らしをしている。対して大きくもない、古びた安アパートだ。
そんなアパートの、桔梗の隣人、檜山(ひやま)が姿を消したのは二週間前の事だった。
唐突に、前触れもなく檜山は姿を消した。
毎朝、ゴミ出しに外出する時にはいつも顔を合わせていたが、二週間前に檜山は姿を見せなかった。一日程度ならば普通にある事だったが、次の日も、また次の日も檜山は姿を見せなかった。
ドアに刺さった新聞がたまっていく様子があからさまに目立つようになってから、桔梗も異常に気付いた。
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