第0話 「晒し者」

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 ふと気付くとそこは暗闇の中だった。  どうやら意識を失っていたらしい。いつから?  暗闇は目隠しのようだ。口も布で塞がれている。  動けないのは、椅子に縛り付けられているからのようだ。    現状を把握し始めて、ようやく恐怖が込み上げてきた。  どうやら自分は監禁されているようだ。  恐怖の中にありながら、何故か冷静に働く頭。  どうしてこんな所にいるのか?  記憶を遡る。  確か今日はデートをしていた筈だった。  一目惚れした女との、初めてのデート。  彼女の行きつけだという喫茶店に入り、コーヒーを注文した。    他愛ない話に興じながら、コーヒーを飲んで……  そこから記憶がない。  まさか、あの女が? 何故? 「見えないことは怖いこと」  背筋がぞっと冷えた。  誰だ。  高く透き通るような声は少女のもののようだ。  どうしてこんな状況で、少女の声がするのか。 「目が見えなくて怖い? 自分の状況が見えなくて怖い? これから何が起こるのかが、見えなくて怖い?」  少女の声の残響が、静かな部屋に漂う。  透き通った声は鈴の音のように美しかった。しかし、よく響く声はこの状況では恐怖の対象でしかない。  誰だ。  噛まされた布をもごもごと動かし、何とか隙間から僅かな声を漏らす。少女はくすりと笑い声を漏らした。 「聞いても無駄でしたね」  背中でビリビリと何かが破れる音がした。  背筋を冷たい感触が撫でる。金属のひやりとした感触だ。  服を刃物で破られた。   「見えないものは何故怖いのか」  ぺたぺたと背中に冷たい感触が当てられる。   「私が思うに、人は見えないものが怖いんじゃない。未知のものが怖いんです。『見えない』でなく『分からない』。分かります?」  何を言っているのだろうか。  それよりも背中に当てられる冷たい感触が気になる。   「分からないからおばけは怖い。分からないから未来は怖い」  冷たい感触が再び背中を打つ。今までのぺたぺたと当てられていた時とは違う感触だ。  それと同時に生暖かい感触が背中を伝っていくのを感じた。  何? 水?  背中を打った冷たい感触から、生暖かい水が背中を伝う。 「分からないから、死ぬ事は怖い」
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