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声を出しかけ口を塞がれる。
どうやら少女以外にもこの場に誰かいるらしい。
考えてみればそうだ。先程手を見せた少女一人で、自分を監禁する事などできる筈がない。
きっとあの女だ。あの女がグルなのだ。
だが、それでも尚、目的が見えない。
この少女は、あの女は誰なんだ。
いや、そんな事よりも。
誰にこの憤りをぶつけるべきかよりも、今の状況が重要だ。
これから何をされようとしている?
いや、自分は何をされている?
手にぽたぽたと垂れる水滴が思考を邪魔する。
そう言えばこの水滴は血だった。
背中から垂れているのだ。
何故?
「随分と血色が悪くなってきましたね」
少女がくすりと笑った。
血色? 何を言っている?
そんな反応を少女は読み取ったのか、あれ、と再び耳元に口を寄せた。
「もしかして、まだ理解できてません?」
少女の指だろうか、何かが背筋をすっと撫でた。
ちくり、と痛む。
「まぁ、『背中を開かれたこと』なんてないでしょうし、分からないのも無理はないかも知れませんね。そういう意味では『分からない』も救いなのかも」
背中を開かれた?
背中から滴る血。鋏の音。背中の僅かな痛み。
まさか。まさか。まさか。
一気に血の気が引いていく。
「あ、まだ血の気が引くんですね。真っ青」
この寒さは血が出続けているから?
血が垂れ続けた手は既にびちゃびちゃに濡れている。相当な量の血が出ているのだろう。
背中を切られた。そう思い始めると、背中の痛みが顕著になり始める。
ずきん、ずきんと響く痛みに、次第に耐えられなくなる。
絶叫した。
塞がれた口に籠もった声は響かない。
しかし、叫んだ事は少女にも、そして傍にいたらしい他の誰かにも分かったらしい。
くす、くす、くす、くす、くす、くす。
気付かなかった。それとも気付かせなかったのか。
少女ともう一人誰か、勝手にあの女だと思い込んでいた人間だけがこの場にいると思っていた。
しかし、違う。
この場には、二人以外にも、何人もの人間が潜んでいる。
何だこれ。何だこれ。何だこれ。何だこれ。
「皆様お静かに。……いえ、もう遅いですね」
少女が誰かに声を掛ける。「皆様」とは、一体この場に何人がいるのか。
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