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淀んだ部屋の真ん中で、携帯のメール着信音が鳴った。
「……こんな時間のこんな時に……誰だ?」
時はとうに丑の刻。こんな迷惑千万非常識極まりない時間に、空気も読まずによくもまぁ……そんな事を考えながらも、こんな真似をしでかす身内を思い出してみるも、検索ワードには誰一人引っかからない。
だとすると、迷惑メールか?いや、それならこの間一括で来ないように設定したではないか。
ならば一体誰が?何の為に?どうして今この瞬間に?
疑問符だけが頭の中でタンゴを舞う。それを眺めていたところで、明確な答えに辿り着くことなどなく。そんな状態で出来るのは、ただ大人しく送信主を確認する事だけだった。
「……なん、だ……これ……」
もしも身内の誰かだったら、内容にかかわらず文句の一つでも言ってやろうと思っていたが、残念ながらそれは叶わない。何故なら、そこに映し出されていた送信主とは……
『鏑木探偵事務所』
その文字に見覚え等あるはずなく、いよいよ疑問符達はレジスタンスを組んで脳内で一斉に騒ぎ立てる。
『これはなんだ』
『こんなところに何かを依頼した覚えはない』
『悪戯だ』
『早く消してしまえ』
『当初の予定を忘れたか』
『目的を見失うな』
『お前は今から××××―――……
「うるさい」
誰に言うでもなく、ありったけの憎悪を込めて空虚に吐き出す。お前らの意見など聞いていない。目的など知った事か。予定など崩して然るべきだ。覚えがなくても、何かしらの道しるべになるかもしれないだろう。邪魔を、邪魔を……するな。
指が勝手にメールを開く。誰とも判明していない、何が書かれているかもわからない、悪質な悪戯かもしれない、その電子と文字の塊から、目を逸らせないでいる。そして、何よりも強く思った。
今ここに、何が書かれているか、知りたい、と。
何故そう思ったのかは自分でもよくわからない。それこそ魔法にかけられたかのように、はたまた狐につままれたかのように、今の今まで心を支配していた負の感情が、一切合財消え去っていたのだ。それはきっと、一時的なものなのかもしれない。しれないが。それでも、その一瞬の間、支配を支配し返したその魔力は、紛れもなく今、心の奥深くまで突き刺さっている。もはや、迷う必要などなかった。
メールを開く。そこには、こう刻まれていた。
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