『お約束が無い場合』

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「助けて」 声を大にして叫ぶ前に、すでに隣家の人間が119番通報をしていた。遠くから聞こえるサイレンの音に、火の手が迫る女も少しだけ安堵を感じた。 しかし、音がぱったりと消えた。 「消防車が事故を起こしたぞ」 下に居る野次馬達が、口々に騒ぎ立てる。女は汗だくになり、目は血走っている。 熱さを背中で感じながら、もう一度サイレンの音を聞いた。 そして消防車は、自分の家を通り過ぎて奥の工場へと向かっていった。 「あっちでもでかい火事が起きたらしいぞ」 再び女は絶望を感じた。その内、住人達が集まってシーツを5枚重ねで持ち寄って女に飛び降りるように叫ぶ。 大きく広げて女の身体をシーツで包むつもりだ。 女は勢いよく飛び出そうとしたが、驚くべき事が起こった。
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