『化石の街』

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男は机の上にある、銀色の筒を手に取り、ドアを開けて丘の上まで歩いた。そして、夕日が照らす黄金色に輝く空を見上げた。 丘の上から見える景色は、崩れかかったビル、折れた空中道路や埃の被ったエアタクシー。 文明の堕ちた様をまじまじと見つめながら、風速を計っていた。男は、開発した『抗体』を風に乗せて、この街で眠る人間を、再び呼び起こそう。そう考えていたのだ。 しかし、計算が合わない。強力に作り過ぎた為に、薄めて散布しようとしても、1週間と経たずに世界中に行き渡ってしまう。 『もう一度世界を元通りにしていいものか』 『祖国の人間だけを、いや、この生まれ育った街の人間だけを、戻すべきじゃないのか』 男は自問自答を繰り返した。それには長い、長い年月を費やした。そしてふと、寂しさと儚さを感じる。 『もういいだろう』と考えていたが、いまいち踏ん切りがつかない。研究者としてではなく、寡黙な人間としての意思が、確かにそこにはあった。 結論に至ったのは、抗体完成から10年後のある日。 ベッドから起き上がり、朝のコーヒーを一杯飲んで、粗末なソイレントの缶詰食をスプーンで食べたその時だった。
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