『化石の街』

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『やはりこの街の人間だけを、復活させよう』 もう一度試行錯誤を重ね、計算し、抗体の空中散布を行なうことを決めた。 男の偉業。 本来であれば、脳内連結方式TVで、全世界の人間に同時に知られ、そして喜ばれる。 しかし、祝福するものは遠くに見える鹿と、鳥と。 木々が風に吹かれる様子が、男の目には手を振っているように写る。一瞬だけ微笑んで、またしかめしい面へと戻った。 季節は秋になり、そしてその時が来た。40年来の開発に終止符を打ち、今ここに古き生命が時間を経てよみがえるのだ。 興奮に胸を高鳴らせた男は、風の吹く日を今か今かと待ち焦がれていたのだが、遂に、今日がその日だ。 絶好の、北東の風が吹いた。 ボンっという音と共に、簡易式の赤い小型ロケットが打ち上がる。 銀色の筒に入った緑の液体は、スプリンクラーのように化石の街へ降り注ぎ、大気と混ざる。 そして、もう一発も同時に打ち上げた。空中で停滞するように高度調整を施したロケット。 男が『一月後』に発動するように仕掛けた、悪魔のロケット。
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