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それにはこう、書いてあった。
『すまない、最後の人類となるだろう』
外から鍵はかけられない。侵入してきた人間が分からないように、カムフラージュを念入りに施していた。
故郷の人間だけを救うと決め、風の吹く日を待っていた、数ヶ月前から偽装の準備を整えていたのだ。
唐突に、乱暴に、試験管を全部割り、抗体作成の全てが記されていたノートに火をつけて燃やす。
男は、コーヒーを飲み、その時をゆっくりと待っていた。
誰かが声高に讃えた。
『誰だ、こんな偉業を成し遂げた人間は』
誰かが恐れを隠せずに叫んだ。
『他の人間も治すんじゃないのか』
そして誰かが、勇気を間違えた。
『男は危ない。我々だけでこの地球に住まうべきだ』
森の近く。男と家族が休むこの木小屋に、人が殺到した。
男は、縛られた。
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