『化石の街』

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抗体の作成方法を尋問された男は、一言も話さずに奥歯の裏に仕込んでいた毒を飲んで、事切れた。 結果、祖国の人々は地球を手に入れたのだ。 そして誰かが口にした。 『王様は僕だ』 『いや、俺だ』 『いいえ、私よ』 口々に権利をはやし立てる声が、今度は草を無くし、灰が散っている丘へ響く。 3年後、母親と娘の『女二人』が草の生い茂った丘の上に立っていた。 妻は、男の帽子を胸で強く抱きかかえて、そっと目を閉じ想いにふけた。 娘の青く、綺麗な瞳が街を優しく見つめる。やがて妻も目を開けた。 二人が男の真意を悟ったのかどうか、それは分からない。 だが、時が過ぎるのを忘れたかのように。 再び化石へと戻った街を、ずっと、ずっと、眺めていた。
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