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「いいか、こういうときは素数を数えるんだ1、2、シャァン!4、5、リョクゥ!」
ここはとある大学の、心理学部のあるキャンパスの、一教授の研究室の前。
主人公の淡渕光輝は2年次から始まる専門演習…通称ゼミの面接待ちをしていた。
「まず一つ目から素数じゃねーしそのネタ流行ったの何年前だよ」
女の子にモテそうなルックスを備えた親友、雲母坂拓海と一緒に。対照的…と言ってはいささか失礼だが、まあ普通よりちょっといいくらいの少し丸みを帯びた顔の光輝はいろんな意味でアホなことをして緊張を和らげようとしていた。
「なによ!せっかく気を紛らわそうと人が気を遣ったのに!プンスコ!」
「とりあえずキャラがぶれ過ぎるくらい緊張している自分を落ち着かせろよ…」
「べ、別にキンチョールなんかしてないんだからねでもあばばばはやっぱり怖いいいい」
しかしうまくいっていなかった。そんな彼を見て拓海はひとつ話題をもちかける。
「大丈夫、お前は受かるよ…俺なんかと違ってちゃんとした目的があるんだから」
するとさっきまで震えていた光輝はその丸い顔をびしっと引き締めてこういった。
「なんかなんて言うな!たくみんだって立派な動機を持ってるじゃないか!わたしは応援してるんだぞ!」
「まったく…たくみんはよせよ」
そういうと思ったよ、と頭の中で呟きながら、扱いやすい親友に温かい目を向ける拓海であった。
「あ、ぶっちーに雲母坂君」
不意に光輝の横から声がかかる。肝っ玉が小さい光輝は跳ね上がり、声の主に驚いた拓海は目を丸くする。
「もう、2人ともそんなに驚くなんてちょっと失礼だよー?」
元気のいい、張りのある声を響かせているのは押見凛という女の子。この男2人とは面識がある。仮に無かったとしても、明るい茶髪のサイドテールが似合う美貌を持つ彼女を、同じ学部の男子で知らない者はあまりいないであろう。
「いやあ、そんな美声をいきなり聞かされたら大抵の野郎はこうなりますわよおほほ」
「なにそのキャラ…でもありがとう」
相変わらずすごい勢いで右往左往する光輝の口調に呆れつつ、嬉しそうにはにかむ凛を、拓海は黙って見つめていた。
面白くなさそうな顔で。
そんな彼を見て、光輝は慌てて話を変えた。
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