夢を見た

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    深い、光の届かない井戸の底にいた。   いつ落ちたのか分らない。     丸く切り取られた空は遥か上方     そこから黒い影になった頭が覗く     丁度太陽を背負った誰かが私に呼びかける。   「頑張って、ここまで上がっておいで。」   眩しさに目を細めながら見上げる   余計に自分の位置を思い知る   無理だよ、そんな高い所から言われたって   なんの足がかりもない。   ロープが降ろされて   「ほら、捕まってのぼっておいで。」   そう励まされてロープを握る。     登ろうとしてみるけれど   だめだ。   体が重い。   手にも腕にも力が入らない。   すると、ロープをつたって降りて来る人がいる。   「ほら、もう一人じゃない。登ってごらん。」   二本のロープの片方を体に縛り付け、もう一方を引き壁を足がかりに登る。   不思議にも、体は軽く腕にも力がみなぎりするすると昇って行ける。     ふと、下を見る。     笑って自分を見送る人。   え?どうして…登ろうよ。   「力はみんな君にあげた。だからしっかりのぼって行きな。」   早く地上に出なくちゃ。   力の出る食べ物を持って来よう。     それで、このロープをまた井戸の底に垂らして。      だめなら助けを呼びに行くんだ。   もう一人じゃない。     
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