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―――裏門の所で待ってる。慌てないでいいから、ちゃんと皆とお別れしておいで―――
「ゆいちゃん、この後みんなでファミレスだって」
「あ、ゴメン。
私ちょっと用事が……」
パタンと“手帳”と閉じて後ろを振り返り、声を掛けてくれたまりちゃんに手を合わせる。
みんなそれぞれ、次に会う約束をし、写真を撮り合い、今日が終わるのを、この教室で、このメンバーで過ごす最後の日が終わるのを惜しんで、中々帰れないでいた。
担任教師がやって来て、そんな私達を「お前ら、気持ちは分かるけど、もう帰れ。」と言って追い立てる。
女子はみんな一様にハンカチを手にグスグスと鼻を鳴らしていたが、場所を移す事にした事で、教室を去るきっかけができたようだった。
まりちゃんが――彼女と3年間一緒のクラスになれて、どれだけ幸運だったか計り知れない――私の耳元に顔を寄せ微笑みを含んだ声で囁く。
「フフ、分かった。あんまり待たせるといじけちゃうからね。
途中まで一緒に行っていい?」
すっかり用事が何かお見通しの言い様に、恥ずかしさでぱっと顔が火照る。それと同時に感謝の念が体中を満たして来る。
「うん!
まりちゃん…………ありがとう。
また……会えるよね!」
ありがとう……。その一言に万感の思いを込めると、彼女の片腕を両手に抱き締めて、その肩に額を預けた。
ずっとずっと、優しく誠実なまりちゃんに甘えて来たような気がする。
一年の最初から、たまたま席が近かったから親しくしてくれたのかも知れないけど、その後も変わらぬ優しさで接してくれて、いつもいつも助けてくれた友達との別れに、一度止まったはずの涙がまた込み上げて来る。
「ゆいちゃん、私達、大学も近いんだから。女子会やろうよ。ちょくちょく」
そう言いながらまりちゃんの柔らかな手が私の背中をさする。
「コラー!二人でいちゃこらしてるんじゃなーい!」
ビクッとして、二人して教室の入口に視線をやると、隣のクラスのゆーかちゃんが腰に手を当てて仁王立ちしていた。
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