ダウト⑤

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 僕は、母が精神を病み、父と家を出て行った日を正確に覚えていない。  気がつけば、姉と2人、大きな一軒家に残された。  姉はどうも、僕が部屋に閉じ籠った理由のひとつに自分の存在があると勘違いしているらしい。  両親が姉ばかりをかわいがっていたから、弟はグレた。  そんなところだ。  姉の責任感は、僕にとって傲慢以外の何物でもない。 「私のせいで」なんて言葉が、もっとも嫌いだ。  お前の存在など、僕にとっては取るに足らないものだというのに。  だいたい、姉だって、僕を見たことなど一度もなかったじゃないか。  それを今さら。  しかも、僕を見ているようで、僕の本質などひとつも知らないのだ。  姉の「私はあなたの家族なんだから」といった偽善的な態度には吐き気がする。
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