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義姉ほどにダイチを信じられていない自分自身と、現状のせいで再び項垂れていたトパズは彼女の言葉に眉をひそめた。
「マリンも気にはなっていたみたいだが……ダイチはたぶん、アタシ達よりずっとたくさんの戦場を潜り抜けてきたんだ。それこそ、命を奪い、奪われるような泥臭い中をな。だからだと思う。あいつの一撃に込められた想いが、あれほどまでに強烈だったのは」
実はな、とトパズに微笑む。
「アタシがダイチに勝った後、泣いちまったんだよ」
「え……な、なんで?」
さしものトパズも勝者であるルビアが泣く理由が思い当たらず動揺を隠せない。それはそうだとルビア自身頷きながら、本当は言う気はなかったんだがなぁ、と情けなく恥ずかしいという感情を見せながら話す。
「殺されると思ったからだ」
「殺される……?」
ルビアの言いたいことがわからないトパズは普段の強気な表情ではなく、純真無垢な子供のようにあどけない顔を見せながら義姉の言葉を繰り返す。先程の二人の訓練で真剣を使っていたのは義姉だけであり、義妹は刃のない模造刀であった。否、トパズやペリドット達との勝負でもダイチだけが真剣ではなかった。
にも拘らず、殺しそうだった、ではなく殺されると思ったと言う。
「ダイチがアタシと戦っていた時の様子、覚えているか?」
あれほどに激しい戦いをかつて見たことのないトパズが忘れるはずもない。即座に首を縦に振る。
「最後にダイチが放り投げた剣がアタシの横に落ちてきただろ? あれだ。あれにアタシは心底恐怖したんだ」
「ただ落下してきただけの、斬れない剣に?」
「と言うよりかは、それをしたダイチにだな。こう言ったら難だが、アタシが初めてダイチを本気にさせたんだと思う。驕る気はないが、ダイチが来るまではこの村で一番強いのはアタシだった。だから、あいつの戦士としての本気を出させちまったんだ」
「戦士としての、本気……」
自身で口にして意味を深く理解しようとする義妹にルビアは頷く。
「唯一、ペリドットに負けそうになった時も本気にはなったみたいだったが……あれは負けたくないって感じだった。けど、アタシへの最後の攻撃、あれは殺そうとしていた。殺意を感じたのさ、地面に刺さった剣からな。敵対するアタシを殺して勝とうとする気持ちが込められていた。アタシはそう感じたんだよ」
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