第三話~繋がれる命~

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「ん……」  窓から差し込む陽射しに顔を歪ませ、鬱陶しそうな表情を見せながらトパズは起床した。  起きるということに非常に弱いトパズだが、ヒスイが倒れ、他の二人も動けない今は彼女が朝食も作らなければならない。眠りが浅くなるためにあまり好きではないのだが、寝る時にカーテンを開けて朝になると陽射しが顔を直射し無理やり起床できるようにしている。こうでもしなければいつも通り、ゆっくりと起きてしまうからだ。 「眠い……」  ブツブツと文句をたれながらうるさくして三人を起こさないように静かに階段を下り、一先ず裏手の川へ向かい顔を洗う。二刃ほどの段差を危なげなく飛び降り、綺麗な冷たい水で少し眠気を飛ばす。普段であればヒスイが用意してくれるホットミルクで目が醒めるのだが、当然そんなものが用意されているはずがない。無意識のうちに家から持ってきていたタオルで顔を拭い、短い掛け声とともに川の上へ戻って家へ入り、朝食の準備をするべく台所へ向かうが、そこで眉間にしわを寄せた。 「……?」  スンスンと鼻を動かすと、何かが焼ける匂いがする。焦げる臭いではなく何かを料理している匂いだ。この家で料理ができるのはヒスイだけだが、今は柔らかい食事を喉に通すのが精一杯で料理はおろか腕を持ち上げることすら叶わないはずだ。しかしこの家には他に料理ができる人間などいないはず。誰かがトパズ達のためにわざわざ朝食を振舞いに来てくれたのだろうか。シオン村では村人同士の信頼が厚く、勝手に家に入れるようにはなっている。一昨日作ったトパズの料理が壊滅的にまずかったことが話題のネタにされていたくらいだから、そういった親切心を働かせてくれた者がいても不思議ではないが。あまりのまずさに食べたルビアとダイチが青い顔をして戻したため、なんとか人の食べられるものを作るやり方を教わったから、そこまでの世話を焼いてもらわなくても大丈夫――とトパズは思っている――なはずなのだが、いったい誰が?  疑念のおかげで眠気が八割飛んだトパズは台所へ向かい、そこに立つ後ろ姿を見た。鼻歌を混じらせながら鍋を握り、香ばしい香りを漂わせながら体を揺らしている。小さな背中に垂れる、踵まで届きそうな長い髪を綺麗な川のように流しながら。  眠気が完全になくなった。 「え、ええっ!?」 「へっ!?」
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