第三話~繋がれる命~

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 これでいい。一人だけ平然としているなんてずるい。怯えて続けて、義妹の元気な姿を見て体の震えが止まらない義姉の気持ちを知らずにただ笑っているなんて、ずるい。 「……ばーか」  長い黒髪を流す頭に顔をうずめ、苦し紛れに吐いた言葉がそれだった。背中越しに、胸元に回された腕に走る震えに義妹も気づいていることだろう。どれだけ心配していたか、不安だったか、思い知ればいい。  そんなことを考える義姉の気持ちを察したのか、肩に入っていた力を抜き、体の前に回されたトパズの腕にそっと左手を添えた。 「ごめんなさい」  申し訳ないと思っているのだろう、その声はひどく静かだった。彼女の体を放してやり、振り返ったところでその頭にそっと手を乗せる。  目尻に浮かんだ涙を拭い、引き攣る頬を必死に動かして笑顔を見せて、 「今度から何かをするなら、必ずお義姉ちゃんに言いなさい。絶対に一人で無茶をしないこと。いいわね?」 「はい、約束します」 「よろしいっ」  始めたのは自分ではあるが、じめついた話はここで終わりとばかりに軽く義妹の頭を叩く。この小さな女の子は本当に聡く、トパズの考えをしっかりと汲み取ってくれる。笑顔を見せて頷き、それから台所に用意してあった、スープを入れた器を抱えて居間の外へ向かう。 「それは?」 「これはヒスイさんの食事です。今は喉を通せるだけですからね。本当は卵焼きを食べさせてあげたかったんですが……。ルビアさんも起こしてきますから、椅子に座って待っていてください」 「卵焼き……?」  残されたトパズは小さく首を傾げ、それからテーブルに置かれた皿の上の黄色い何かをよく見ると、なるほど確かにそれは卵だった。普段食べている煎り卵を、形を崩さずに焼くとこうなるのだろう。トパズ達に用意されたスープ用の匙を手に取り、甲で軽く押しつける。ふんわりとした感触が匙を通して伝わってくる。 「……」  知らず知らずのうちに口内で溢れかえっていた唾を飲みこみ、先に食べたくなってくる衝動を抑えていると、義姉を引き連れたダイチが下りてきた。その手には器がある。ヒスイはまだ起きていないのだろう。昨日から歩けるようになっていたルビアは大欠伸をしながら椅子に座る。 「おはよう二人とも。……くぁ~っ」
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