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やっとダイチが元気になったというのに普段通りの態度をとるルビアには呆れを通り越して感心してしまう。いや、トパズと違い、心配するよりも元気になってくれると信じていたからなのかもしれない。そう考えると呆れではなく悔しさが湧き上がる。
「ん?」
テーブルに並ぶおいしそうな朝食を見おろし、それから寝ぼけた目でトパズを見つめる。
「昨日のとはずいぶん違うが……これ、トパズが作ったんじゃないだろ」
「そこまで断言されるとさすがに腹が立つけど、ええそうよ。今日はダイチが作ってくれたの」
「剣だけじゃなくて料理もできるのか……」
驚きというよりも若干呆れを混じらせた瞳でダイチを見下ろす義姉。
「わたしのいた場所では、女の人が食事を作るのが当たり前だったんです。……まあ、わたしの場合はちょっと事情が込み入ってますが」
「うん?」
最後に何と言ったのか聞き取れずルビアが聞き返すが、ダイチは首を横に振った。
「さあ、食事にしましょう。お口に合うかはわかりませんが」
「見るからにうまそうなのにそんな謙遜するなって」
「わたし、さっきからよだれが止まらないんだけど?」
それぞれの褒め言葉にダイチは恥ずかしそうに頬を掻く。
祈りの言葉を告げ、三人で食事をとる。やはり気になるのは煎り卵の塊だ。ダイチ曰く、卵焼きだったか。ルビアとトパズはフォークで切り。一切れを口に運ぶ。
一度噛み、二度咀嚼し、しっかりと味わう。二人は黙って口を動かし、やがて喉を通して胃へと追いやった。
「ど、どうですか……?」
「どうか、だと……」
「何よこれ……」
二人の反応がおかしい。何か相当に体に悪いものを食べて拒否反応を起こしているようにも見える。味付けを間違えてしまっただろうかと、ダイチも卵焼きを食べようとした時だった。
二人が吼えた。
「うまい!」
「おいしいじゃないの!」
「ひっ」
思わず悲鳴を上げるダイチ。その反動でフォークに刺していた卵焼きが抜け、宙を舞う。それを目ざとく睨みつけたルビアがナイフで斬り上げ、勢いによってやや上へ飛びながら両断される卵焼きの欠片。
分断された小さな欠片達はルビアとトパズが目にも止まらなぬ速さで突き出したフォークに貫かれ、そのまま間髪入れず各々の口へと運ばれる。
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