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室内は当然ながら暗い。廊下からの光のおかげで辛うじて中が見えるくらいだ。慎重に中へと歩を進め、ベッドのそばに到着するとトレイを椅子の上に置き、俯せ状態のまま目を開けているヒスイに微笑みかけた。
「おはようございます。気分はどうですか?」
「うん、悪くないよ。むしろ、最高、て言ってもいい気がする」
掠れたような声を出すのは、傷口に響かせないためだ。
そうですか、とだけ答え、傷が開かないようにそっとヒスイの体を起こす。あまり無理をさせられないが、かといってずっと俯せで寝続けるのも体に良くないのである。背中の傷に触れないようにしながら体を支えてやり、もう片方の腕でトレイごと持ちあげ、ベッドの上で座るヒスイの膝の上にそっと置いた。
「ありがとうダイチ。でも、僕はもう大丈夫だから」
「無理をしないでください。それに今は下に降りたくありませんから」
「……下で何が起こってるの?」
まだ元気に続けている義姉達の騒ぎにダイチは苦笑する。
「模擬戦闘訓練でもしてるんじゃないでしょうか。あ、スープなんですが、飲めますか?」
「いい匂いだ……ダイチが作ってくれたのかい?」
「まあ、一応」
「ダイチは剣だけじゃなくて、料理も上手なんだね」
さっきも聞いた言葉にダイチはただ微笑み、スープを一匙掬うとヒスイの口へと運んだ。
「……うん。すごくおいしいよ。ちょっと悔しいけど」
「ヒスイさんほどの腕の人にそう言っていただけるほど、光栄なことはありませんね」
はは、とヒスイは笑い、ダイチが差し出すスープを啜る。
「これは間違いなく、僕よりもダイチのほうが上手だよ。妬けちゃうなあ……もっと、頑張らないと」
「料理を、ですか?」
「うん」
「それじゃあ、元気になったら一緒に料理をしましょう。この村に伝わっていない、わたしの故郷の料理を教えてあげますから。そうしてルビアさんやトパズさんや、それにヒスイさんの大事な人に食べさせてあげてください」
「っ……ダイチ、知ってるの?」
ヒスイの頬が若干赤くなっている。しかしダイチはヒスイの言葉に肩をすくめるだけで匙をまた動かした。喉に味わい深いスープを通してからヒスイは苦笑する。
「ダイチは、意地悪だね」
「よく言われましたし、自覚もしてます」
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