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「……ごめんね」
スープを半分ほど飲んだ頃、ヒスイがポツリと言った。項垂れ、掛布団の上のスープ皿をぼんやりと見つめるその目は随分と暗い。ダイチは目をパチクリし、それから問う。
「というと?」
「僕が、森で倒れたせいで……迷惑かけた。ダイチもルビアも倒れて、トパズにだって心配かけたし、サフィさんだって――」
「それ以上言ったら、怒りますよ」
不意の強い一言だった。
「ダイ、チ……?」
驚いて首を動かし義妹を見る。鋭い目だった。背筋に冷たいものが走り、思わず退きたくなるような、言いようのない恐怖があった。いや、恐怖というのは些か表現がずれている。威圧感、覇気、と言ったほうがより適切だ。ただただ強い意志を感じさせる黒い瞳が、ヒスイの奥底にある何かを見据えている。
「ヒスイさんが森に向かったのはそもそもわたしの不機嫌が原因です。でもそんなことはどうでもいい。わたしが謝ったところでヒスイさんは気にしていないなんて言いそうだから。いい? ヒスイさんが謝ることの意味がわかってる? わたし達、ルビアさんやトパズさん、貧血になりながらも血を分けてくれたサフィさん。心配して看病に来てくれた村のみんな。そんな人達の好意を、優しさを素直に受け止めないことで、みんなの想いを踏みにじっている。誰が謝罪の言葉を聞きたいって言った? 誰かが言ったか? 誰かが謝れって言うとでも思ったのか!?」
ダイチが激昂した。瞳孔が開き、やや歯をむき出しにしている。ダイチが怒っている。わかったのは、それだけ。怖くはない。強かった。声が、言葉が重かった。そして自分自身の軽い発言がどれだけの罪を持っていたのかということに気付いてしまった。
「っ……」
我に返ったように視線をそらし、ダイチは気まずそうにし顔をしかめる。だが突然怒鳴ったことに対して謝罪も何もする気はないらしい。
謝ることが正しくないから。自分が言ったことが間違っていないと、そう信じているから。
無言でスープのおかわりを口元に持ってきてくれる義妹のそれをありがたく啜り、それから小さく頷いた。
「そうだね。ダイチの言うとおりだ」
「え……?」
もう一匙掬おうとしていたダイチは手を止め、ヒスイを見つめた。
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