第四話~激突する刃~

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 ヒスイの森での事件から十日が過ぎた。ルビアも体調が戻り、医者は念のためと休むことを奨めたのだが、いつまでも兵長代理をサフィに任せているわけにはいかないと言い張り無理を通して今日から訓練に参加の予定だ。元々タフな彼女のこと、体力は衰えはしているものの自前の根性による訓練で体力を取り戻そうということだった。サフィの比較的緩い訓練からのハードな日常へ戻ることでシオンの剣の少女達はげんなりしていたが。  ダイチはこの八日間はシオンの剣の訓練を休止し、ヒスイとルビアの世話と家事に務め、シオンの剣へは時折顔を出す程度で、剣の修練はトパズとの夜の手合わせくらいでほとんどしていない。少なくともトパズやルビアは知らない。  本来男手の必要な家事だが、一時的にはトパズがしていたもののダイチが代わりを担えるということで、ダイチが復活した日以降からはルビア同様、これまでと同じく兵士として過ごしている。疲れて帰ってからはダイチとの訓練は欠かさず行っているが、その後は風呂で泥のように沈み、半ば溺死しかけてからベッドへと直行というのが日課となりつつある。 「本当に行くんですか?」  朝食を食べながらそう言ったのはダイチだった。モグモグと口を動かしながらトパズは頷き、口の中のものを一気に飲み込む。 「この村にあっても仕方ないし、元々隣町のものだからね。だいぶ遅くはなっちゃったけど、ちゃんと返しに行かないと」 「それはまあ、そうですけど……」  ダイチは渋々頷く。おかわりと言わんばかりにスープ皿を突き出す、料理で口を大きく膨らませたルビアのそれを受け取り、温かいスープを注ぎ足し義姉に差し出した。 「でも、それはわたしが借りたものだからトパズさんが無理に休暇を使ってまで行かなくても……」 「けど、ダイチはヒスイの世話があるじゃない。ここを離れるわけにもいかないでしょ?」 「むぅ……」  ダイチは唇を尖らせる。  ダイチが嵐の中、隣町まで行って借りてきた血液を他者の体に与える道具である。ダイチはそれを輸血器と呼んでいた。初めて使ったとはいえ、やはり医療の心得がある医者だ。しっかりと洗浄、消毒はされているため、借りた時同様に綺麗になっている。
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