第四話~激突する刃~

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 若干呆れ顔でルビアが呟く。馬鹿にしていたり不快に思っているわけではないのは一目瞭然であるが、外の三人にはその顔の真意は掴めない。 「実はこの間、ダイチに叱られちゃってね。年長者としては恥ずかしいばかりだよ」  あははと恥ずかしそうに頬を掻くヒスイ。 「次はアタシがダイチに何かを教えられる番かね」  立ち上がりながらルビアがぼやく。部屋に戻っていくのを確認し、その間にダイチは台所へ戻って弁当箱に昼食用に作っておいた料理を詰め込み、赤い風呂敷に包みこむ。  ガシャガシャと背負った大剣から金属らしい音をさせながら階段を下りてくる義姉に包みを渡し、仕事へ向かう彼女を見送る姿は完全に主夫ならぬ主婦である。 「さて、と」  義妹の姿にいつまでも見とれているわけにもいかない。これから隣町まで馬を走らせなければならないのだから、ゆっくりしていては日が暮れてしまう。 「わたしもそろそろ行く準備をするわ。ダイチ、わたしにもお弁当お願いね」 「はい!」  元気のいい返事をして台所へ走っていく小さな背中を義兄とともに頬を綻ばせながら見つめ、それから視線を合わせて同時に肩を竦める。どうにもこの子の愛らしい仕草には勝てそうもない。身内贔屓は好きではないが、どうしても彼女のことを一番大事にしたくなる。護ってあげたいと思ってしまう。無論、トパズよりもずっと強いダイチを護るなどというのはおこがましいにも程があるだろうが、これは腕っぷしの強さの問題ではないのだ。 (ヒスイも同じようなこと、考えてるんでしょうね)  自室に戻り、壁に掛けてあった細剣を握る。抜剣し、部屋の中という狭い中で軽く振り、壁に向けて突きを放つ。紙一重の距離を残して切っ先は壁には当たらなかった。  レイピアを引き、その剣身をじっと見つめる。  間合いをしっかり把握しているからこそできる芸当だ。それが例え反復し続けた部屋と言えど、そう簡単にできるものではない。剣の正確さであれば、少なくともダイチがいなかった時はシオン村で一番だったと自負している。それに速さも。反射神経や動体視力、単純な腕力や体力も十分に充実しているが、彼女の強さの理由はそこだ。いや、だった、という表現がより適切だ。
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