第四話~激突する刃~

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「いいえ、メノウの言う通り休暇よ。少し隣町まで行くからあなたのお父さんに馬を借りに行くところ」 「隣町? あ、ダイチが借りてきたあのなんとかって道具を返しに行くの?」 「ええ。どうせだから少し店でも見てこようかと思ってはいるけどね」  そっかそっかーと頷くメノウ。 「隣町かー。もうずっと行ってないや」  この村の多くの家に共通することがある。それは家に母親がいないことだ。何も死んでいると言うわけではなく、村から出て行ってしまっているのだ。小さな片田舎では多くの戦力を必要としない。そもそもが兵士が必要になることがまずないので、この村に戦う女性を多数くすぶらせることは維持費で村にも負担をかけることとなる。シオンの剣のメンバーが皆若いのはそういった理由にあるのだ。  メノウの母親がいた頃は、よく親子三人で隣町まで馬で出かけていた。今ではメノウが兵士となり、忙しくもなったのでなかなか行っていない。 「メノウのお母さんは城下町で兵士をしてるのよね?」 「うん。自慢のお母さんだよ」  恥ずかしそうに、しかし嬉しそうにはにかむメノウを見てトパズは微笑む。 「それなら早く追いついて、その背中を越えなきゃね。ほら、時間は大丈夫なの?」 「あ、やばいルビアに怒られる! じゃあトパズまたね」  フリフリと手を振って走っていくメノウ。彼女の走る後ろ姿が妙にいびつな気がしながら何となく見送り、馬を借りるためにメノウの家へと向かう。 「お母さん、か……」  ぽつりと漏れるその呼び名。忙しくなかなか会えないが、それでも義母は愛してくれている。初めて出会った時はともかく、今はそれを疑う気持ちは一片もない。  今考えていたのは生みの親。  トパズと同じ、いや、それ以上に鮮やかな金色の髪と瞳をしていたように思う。凛として、かっこよく、美しい母親。強く優しく誠実で、聡明な女性。思い浮かべるだけで、記憶の中のあの人はトパズに笑いかけてくれる。かつての名を、心から愛を込めて呼んでくれる。  あの温もりを忘れることはあり得ない。その母親と共にいる父親。トパズは二人が大好きだった。 (でも……)  林道での出来事が、十年も前の記憶が脳裏をよぎる。
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