第四話~激突する刃~

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「っ」  過去を振り払うように強く頭を振る。今の自分には関係のないことだ。このシオン村に住んでいるのは、今ここにいるのはトパズだ。他の誰でもない、インカローズとオニックスの義娘で、ヒスイやルビア達の義妹で、ダイチの義姉で、シオンの剣の一員のトパズ。  深呼吸をし、お世辞にも凹凸が激しいとは言えない胸を撫で下ろす。気持ちも思考も冷静になり、普段通りの自分がいることを確認してから既に到着していたメノウの家の表から裏手へ回る。今の時間帯であればメノウの父が馬達の食事のために村の外へ連れて行こうとしているはずだ。  裏手にある馬小屋を見ると、やはり馬を連れてどこかへ行こうとしている人を発見した。 「アルナさん、おはよう」 「ん? おお、トパズちゃんじゃないか」  麦藁帽を被ったやや小太りの男性がトパズに気付き破顔して手を振る。 「おはよう。今日は休暇じゃなかったかな?」  トパズの腰に提げられた剣を見て首を傾げるアルナ。 「ええ、さっきメノウにも言われたけど休暇よ。今日は隣町へ行くからアルナさんのところの馬を借りようと思って来たの」 「ああ、そうかいそうかい。ちょっと待っておくれ。おーいシロマー」  彼の呼び声に耳を動かし、ゆっくりと一頭の馬が歩いてきた。毛並みが砂糖のように白く、鬣(たてがみ)から尾まですべてが純白の馬。陽光が反射し輝いて見えるほどに綺麗な毛並は、他の馬達も等しく愛情を込めて手入れをされているのだが、この馬ほど美しい色はいない。アルナの言葉通りに歩いてきた彼女がすり寄ると麦藁帽の親父は優しく首筋を撫でてやり、シロマは気持ちよさそうに目を細めた。  ちょっと待っててくれとトパズとシロマに言い残し、アルナが小屋に入っていった。 「おはようシロマ。今日も元気そうね」  声をかけながらそっと腰辺りに手を乗せる。今度も嬉しそうに目を細め、小さく嘶いた。 「これから隣町まで行きたいの。貴女にひとっ走り頼みたいんだけど、いいかしら?」  ここの馬達は本当に賢い。トパズ達が話す言葉を理解するのである。時折訪れる商人達はアルナが世話をする馬を見ると、初めての者は必ず仰天するのだ。きっとアルナがメノウと等しく大事に想い、世話をしているからこそのものだとトパズは思っている。これは彼の功績だ。
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