第四話~激突する刃~

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「もちろん、貴女達が賢いことはわかっているけどね」  突然何を言いだすのか。そういった風な目をしながらも褒められたことが嬉しいようで顔を押し付けてくる。 「こらこら、はしゃがないで。貴女の力はわたしよりずっと強いんだから」 「おー、やっぱりトパズちゃんによう懐いてるなあ」  軽く膨らんだお腹をリズミカルに弾ませながら戻って来た。その手には金属製の鞍と毛布が握られている。アルナは手慣れた動作で素早く鞍をシロマの背中につけた。 「よし。じゃあ二人とも気を付けてな」 「ありがとうアルナさん。それじゃあ行きましょうか。っと、その前に」  シロマの背中に跨りアルナに礼を述べてからトパズは視線を馬達の方へと向ける。より正確には、その中でこちらを睨んでいる一馬だ。シロマとは正反対の出で立ちをした一頭。鬣から尾まで、全身真っ黒な雄馬である。ジーッと睨みつけてくる黒いそれにトパズはため息を吐いた。 「別にあんたの姉を取ろうってわけじゃないわよ。そう睨まないでよね」  シロマの弟である黒い馬は恨めしそうにトパズを見ていたが、やがて拗ねたように顔を背け他の馬達の中に混ざった。トパズの代わりにシロマがやれやれと言わんばかりに頭を下げるのを見て苦笑が漏れる。 「本当、貴女達は変わってるわよね。両親のどちらも茶色い毛並みだったのに、どうしてシロマ達双子はこんなにも不思議な色をしているのかしら。触り心地だってこんなにも最高だし」  ゆっくりと村の外へ向かうシロマの首筋に手を這わせる。いつまでも撫でていたくなるような、ふんわりとした感触が掌に返ってくる。  村の外に出ると、あとはどこまでも続くように見える広大な草原だ。離れた場所にある丘陵を越えた先に隣町はある。ルビアと共に時々村の外で訓練をする際に使っている丘だ。 「さて、と。それじゃあ軽く急ぎましょう。あんまり時間をかけてたらクロマが怒りそうだし」  シロマはもう一度嘶くと走り出した。  途中で休憩を挟みながらシロマに走ってもらい、到着した頃には太陽が真上に来ていた。久方ぶりに訪れたが馬を預かる場所は記憶に違わずシロマを牽引してそこへ行き、この子に限っては不要だと知りつつも周囲の目もあるため馬留めに繋ぐ。
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