第四話~激突する刃~

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「少し時間がかかるかもしれないけど、ゆっくりしててね」  水と軽量の干し草を注文してからトパズはシロマから離れて外へ出る。いい時間帯でもあり、小腹が空いてきた。 「たしか診療所は少し先だったわね。先に近場で食事を済ませておこうかしら」  キョロキョロと周囲を見渡すトパズ。  シオン村から最も近い人間が住んでいる場所が、この町クレピスである。南北に長い山脈ヘイラシウムを西の側に持ち、そこで自生している木、あるいはそれを材料として作った家具等が主な生産品だ。国内でもトップクラスの材質を誇る木は王都から買い取りに来る客も少なくはない。シオン村からそう遠くない位置にあるこのクレピスが、田舎に拘らずそれなりの土地面積、人口、建物の規模が大きいのはそういった資源として価値を持っているからに他ならない。  旅商人が多く訪れるこの町は酒場もそれなりに賑わいを見せる。商人達が互いの情報交換をし合い、互いの仕事がうまくいくことを祈願し鼓舞し合う場所だ。残念ながらシオン村にはないためトパズは入ったことはない。酒を飲むことに制限があるわけではないが、あのきつい匂いはどうにも好きになれそうにない。  扉の向こうから騒がしい男性の声が聞こえる酒場を通り過ぎ、ナイフとフォークが描かれた看板を提げる、おいしそうな匂いを漂わせている店へと入る。適当な席に座り、店主らしき人物が料理をしている。頭上にメニューを書いた板がいくつもぶら下がっており、その中の一つを注文してから窓の外に目を向けた。  隣の建物から聞こえて来るがさつで少々品のない笑い声に少々顔を顰める。村にいる男性はあんな風な笑い方をしない。大きく笑うことはあれど、ヒスイやアルナを始めとする村の男はもう少し落ち着いていて、優しい笑い声を出す。  この店はいい場所だ。店内も綺麗で、机や椅子も触り心地がよく、料理をしている男性も爽やかで見ていて嫌な気分になることもない。客層もどちらかと言えば品のある町人ばかりだ。それなりに繁盛しているようで、テーブルやカウンターはいくつかあるが、椅子はともかく空いているテーブルは最後の空きにトパズが座り一つもない。  唯一の欠点はやはり隣の酒場から聞こえて来る声に違いない。
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