第四話~激突する刃~

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「お姉様……」 「嬉しい」  茶髪のツインテールで鋭い目をしていたのがコハク、藍色のショートヘアーで物静かな子がカイヤというらしい。  三人だけの世界に入ってしまい苦笑をしながらトパズは視線を逸らす。偶然目に入ったのはエメラが壁に置いた長物だった。全長は三刃(じん)以上あり、先端の刃が三日月の形をしている。刃の峰は歪に歪み、短い房が付けられ、刃に対して柄の反対側には小さな金属の突起物が取り付けられている。把尖(はせん)と呼ばれる部位だ。  非情に重く、扱うには相当の筋肉と力量が必要な大刀。倉庫の中で一度だけ見たことがあるその名は、 「偃月刀……?」 「あら、これのこと?」  思わず口が動いたトパズの声を聞き漏らさず、自分達の世界に入っていたエメラは妹二人の頭を撫でながら壁の武器を見、それからトパズに笑顔を見せた。 「旅の間、ずっとあたしを助けてくれているの。言わば相棒ってところね。正直、別の棒も最近は欲しいところなのだけど……」  流し目で料理をする店主を見つめるエメラ。手元を見つめて一生懸命料理をしている店主が不意に視線を上げ、エメラと視線が交錯する。すると店主は耳を赤くし戸惑い気味に視線を逸らして料理に戻った。  女性としての魅力は主に強さ。他にも性格面や容姿などでも魅力の要素は含まれるが、視線を合わせただけで異性を照れさせる、つまり相手に性的な好意を持たせるというのはそうそうあることではない。 「お、お姉様! わたし達が次の伽(とぎ)をもっと頑張りますからそのようなことは……!」  大慌てでエメラを揺するコハク。カイヤもわずかながら不安そうに眼を揺らせながらエメラを見上げている。店主を見ていたエメラは嬉しそうに笑い、二人の頭を抱き寄せて豊満な胸にうずめる。 「じょーだんよ♪ でもせっかくそう言ってくれてることだし、今夜はたーっぷり可愛がってあげるからね♪」 「嬉しいです、お姉様……」 「ん」 「……」  三人を見ていると、なぜだか深く関わるべきではないと直感した。なんというか、こう、知ってはいけない世界にこの三人は足を踏み込んでいる気がする。シオン村にも一名ほど同類がいる気がするが気のせいだと思いたい。いや、せめて一人でよかったと思うべきか。もしも目の前みたいに複数人同種がいればピンク色の世界発生は免れなかっただろう。
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