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「ありがとー♪ あ、ところであなたのお名前、なんていうのかな? 随分と綺麗な髪と瞳をしてるけどー」
エメラの瞳が妖しく光る。トパズも警戒の色を見せ瞳を細めるが、動揺は表には出さない。
(あの村みたいに、外部と関わりが極端に薄くない限り、いつかは感づかれるとは思ってたし)
小さく肩を竦めて名を名乗る。
「トパズよ。シオン村で兵士をしているわ」
「シオン村……ね。あ♪」
不意に嬉しそうに横を見るエメラにつられてトパズを含む三人も同じく首を動かすと、四人の料理を持ってきた店主がいた。
食事を終え、謎の三人姉妹と別れたトパズは一人診療所へと向かっていた。妙に馬が合わないコハクといがみ合いながらの昼食は楽しいとは言えなかったが、一人静かに食べるよりはよかったのかもしれない。尤も、もう一度あの時間に戻りたいかと言われれば断固として拒否するが。
山脈がそびえる方向へ大通りを道なりに歩き、興味本位で武器屋や食材屋、特産品で作られた家具などを見て楽しみながら診療所へと到着する。シオン村のそれよりもずっと大きな建物だった。両開きの扉はシオン村には存在しない。そもそも扉の面積として大きなものを作る必要がないためである。逆に言えば、ここはそれだけ人が出入りすることも多いということだ。町の人間や商人などの旅人の多くがこの診療所を訪れるのだろう。
中へ入ると、独特の香りが鼻をつく。こればかりはどこの医療施設も同じらしい。シオン村の診療所と同じ匂いの中を歩き、入り口の待合室で座っている数人の患者の横を通り抜け、受付カウンターで座している男性に声をかけた。
「すみません」
「こんにちわ。今日はどうなされましたか?」
にこやかに挨拶をする男性の目の前にトパズはここから義妹が借り受けたものを出した。
「以前に義妹がお借りしまして、今日はこれを返し、に……?」
言葉がだんだんと小さくなっていく。何故なら受付の男性の表情が驚愕に溢れ、口と目を前回に見開き呆然としたからである。いったい何だというのだろうか。
口をパクパクとさせてなんとも間抜けな顔を晒す男性だったが、流石に引き気味になったトパズに気付いたのか、正気に戻るために自身の顔を平手で叩いた。それも、何度も。
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