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「あ、あんた何してる――!?」
「あの漆黒の騎士様のお姉様でしたか!」
トパズの声を遮り男性は彼女の手を握って突然そう言いだした。
(漆黒の騎士ぃ!?)
誰だその大層な二つ名を授かったのは。いや、漆黒という色の表現とお姉様と呼ばれたことで誰のことを言っているのかは想像は難くないけれど。ないのだが、お姉様という言い方がつい先程であった不快な少女を連想してしまうので心なしか表情が曇ってしまう。
そんな風にあまり快く思っていないトパズの手をしっかりと握って離さない男はそのまま後ろを振り返り叫んだ。
「みんなー、漆黒の騎士様のお姉様がいらっしゃってくださいましたよー!」
何その妙に遜(へりくだ)った物言い!?
卑屈なまでな言い方に若干どころか普通に引き始めた頃、何やら奥からドタバタと騒がしい音がしだし、あっという間に大勢の人間がやって来た。白衣を着ている者や患者らしき人物が大勢詰め寄せている。人数からして男性女性年齢関係なくこの診療所の関係者すべてが集まっているらしい。気づけば背後で座っていた内の何人かもギリギリまで来ている。全員が全員、最高な笑みを浮かべ目をキラキラと輝かせている。正直怖い。
「な、なんなのよ……」
いつまでも握られている手をさりげなく離し、後ろに人がいるせいで下がれないまま尋ねる。するとトパズの手を握っていた男性が嬉しそうに言った。
「あの、貴女様は十日前にクレピス町で盗賊を華麗に追い払ってくださった漆黒の騎士様のお姉様であらせられますよね?」
「強盗? 十日前に義妹のダイチがこの道具……輸血器だったかしら。借りに来たんだけど。嵐の日だったわ」
「あの方はダイチ様と仰るのですね! ああ、なんと素敵なお名前だろう……」
周囲から歓声が上がる。ダイチを連呼する声が聞こえ出す。なんなのだこれは、一種の宗教なのか。
「ご、ごめんなさい、状況がちょっと掴めないんだけど……」
頬が引き攣るのはもはや仕方がない。
「十日前のことになるのですぐわふぁっ!」
話そうとした男性を上から押さえつけるように身を乗り出してきた別のスタッフが口を挟む。
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