第四話~激突する刃~

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 お姉様が穢れる! と叫ぶ少女にルビアは頬が引き攣る。腹が立ったわけではなく呆れているのだ。よもや初対面の人間に対してこんなにも強気で一方的な発言ができるとは大した胆の持ち主ではある。  だが、ルビアのように全員が暴言を流せたわけではなかった。 「話しかけてきたのはそっち。それにここはシオン村。余所者であるあなた達の都合をこちらに押し付けるのはおかしい」  一番三人に近い場所にいたマリンが茶髪の少女に言い返す。 「は? 雑魚は黙ってろようるさいな」 「っ」  マリンの眉がわずかに動く。普段冷静な彼女だが直球の悪口には慣れていなかった。 「旅をしながらいつもその無礼を振りまいているの? だとしたら、大層頭が劣化しているのね。うちのアクアちゃんよりもずっと残念だわ」 「はあ!? 言ってくれるじゃない雑魚のくせに!」 「それしか言えないのが残念な脳の持ち主っていういい証明ね。眉間に皺を寄せてるし、短気で冷静さもなく語彙と発想がひどく貧困」 「言わせておけば……!」  顔を真っ赤にして腰の弓を握る少女。だがそれよりも早くマリンが走りだした。 「馬鹿、よせマリン!」  背後でルビアの制止を促す声がしたが聞き流し、右手でハンガーを握る。真ん中の女性は微動だにしていないし、左の小さな子は慌てた様子なく盾を握ろうとしているが遅すぎる。茶髪の子も弓を握っただけで構えるには至っていない。これならば二人に先んじてハンガーを首に突きつけ降参させられる。ここまで侮辱させられては剣士として黙っていられない。何よりルビアを貶されたことで一番腹が立っている。  ツインテールとの距離二刃。抜剣をしようと力に腕を込め、 「はーいごめんねお嬢ちゃん♪」  重い衝撃が腹を襲った。つい今まで走っていたはずなのに目的の少女がゆっくりと離れていく。  マリンが意識を失う寸前に見たのは、緑髪の女性が偃月刀を逆手に握り、把尖をこちらに突きつけている姿だった。 「マリン!」  ドサリと地面に崩れ落ちる双子の妹を見てアクアは叫ぶが返事はない。 「だめよコハク。そうやって相手を刺激するから怒らせちゃうのよ?」 「はい、お姉様……お護りくださりありがとうございます」
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