第四話~激突する刃~

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 反省している様子もなく、むしろ嬉しそうに頬を紅潮させてお姉様なる人物を見上げている。もはやルビアや目の前で倒れているマリンなど眼中にないらしい。 「よくもマリンを……あたしの大事な妹をお!」 「アクア!」  よほど頭に血が上っているらしい。元々直情的で思慮をすることに欠けるアクアは妹がやられたのを見て飛び出した。これまで一度も見せたことがない怒りの表情で。  中央の女性を狙い直剣を振り上げるアクアに倣って他の少女達も武器を手に立ち上がる。制止をかけたルビアを含む、サフィとペリドット以外は皆怒りに我を忘れているようだ。  しかし。 「駄目」 「雑魚は黙ってろって言ってるだろ!」  アクアと煽情的に微笑む緑髪の女性の間に割り込んだ小さな少女が左手に握ったバックラーでアクアの剣を弾いた。防いだではなく、弾いたのだ。  盾の心得もあるアクアは驚愕の面持ちで体勢を崩し、  ズドンッ、と。右手のバックラーでトパズの腹を打った。衝撃が体を貫きマリンの真横に倒れこむ。左手から落ちた剣が面を向けて彼女の体の上に横たわった。  そしてアクアが倒れる数瞬前に茶髪の少女が矢を数本射出していた。それは見事に剣を抜く少女達の握る武器に命中し、凄まじい衝撃で手を放してしまう。強い痺れが利き腕に残りアクアに続こうとしていた少女達は全員武器を拾えず悔しそうに、不敵に笑う茶髪の少女を睨みつけている。 「はっ、弱いったらありゃしない!」  小馬鹿にするように首を振る少女。しかし今の動きで証明された。彼女の発言は決して虚言や口だけのほら吹きではない。メノウやヘリオを始めとする八人に対しそれぞれ素早く矢を放ち、的として小さな武器を正確に撃ち抜く素早さと正確さ。間違いなく一流の弓使いだ。決闘には不向きなために今では疎遠になりがちだが、遠方の敵を先んじて攻撃できるメリットはでかい。現に今こうして攻撃しようとしていた少女達を一気に無力化したのだから。  盾を握っている少女に関してもそうだ。突然に割り込んだとはいえ、あの小さな盾でアクアの剣筋を完全に見切り、しかもそれを綺麗に弾き返す、所謂パリィはそうできるものではない。さらに間髪入れずにアクアに追撃を加え戦闘不能に追いやる打撃力と判断力は並の剣士では到底対応できないだろう。
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