第四話~激突する刃~

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 だが、驚くべきことに彼女は躱すではなくそれを受け止めて見せた。偃月刀の長い柄で見事その重い一撃を正面から受け切ったのである。重力さえも加えた一撃を止められさしものルビアも目を見張る。だがそこで止まるわけにはいかない。女の柄を蹴り飛ばし、後ろに押しやるとすぐさま後を追い再び横から斬りつける。ルビアの剣技、ビーストブロウの初撃だ。これは初撃を止めるか、斬撃の範囲外に逃れるしか方法はない。初撃を躱して二撃目も受け流すなどダイチのような者にしか不可能なはずだ。 「せいっ!」  そして敵が選んだのは前者。鋭い掛け声とともに偃月刀を振るう。激しい衝突音と衝撃を周囲にばら撒き、互いの武器が弾かれた。 「くっ」  いや、わずかではあるがルビアの方が押されている。互いが反発するだけではない、強い衝撃に手を痺れさせながら苦虫を噛み潰したような顔をし、斬撃と反対方向に流れていくクレイモアに引かれるようにして体を回し、そのまま流れを利用して回し蹴りを放つ。狙いは相手の顎。脳を揺らして動けなくする。  それを読んでいたのか否か、女性は後方へ弾かれた偃月刀に従い体を後転、身を後ろに逸らすことでルビアの一撃を回避し、それにとどまらずルビアが蹴りだした右足の腿を強く蹴り上げる。  反射的に足の動きを加速させたおかげで直撃は免れたがわずかに掠り、無理な動きをしたせいでそのまま仰向けに倒れてしまった。すぐに体を起こそうと地面を蹴り、  そのまま背中から地面に落下する。 (なんで――!?)  反射的な動きだった。いつも通りに抜剣した状態で倒れた体勢からの復帰。下半身を曲げ、強く宙に蹴り出し、その反動で体を一気に前方へ運んで飛び上がるという原理としては簡単なもの。  できなかった理由。無謀にも斬ってくださいと言わんばかりに情けない姿をした自分。そこへ遠慮なく大上段から振り下ろしてくる敵。  回避も防御も間に合わない。  今は以前とは違う。体のスペックが記憶と経験に追いついていない。だからこそオーバーテクニックを使ったせいでミスが生じた。転んだ。  目を瞑らなかったのは何故だろうか。死が、殺意がすぐそこまで迫っている。偃月刀を振り上げた女が楽しそうに、妖しく笑っている。恐怖が身を支配する。背筋に冷たいものが走る。
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