第四話~激突する刃~

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「させないっ!」  目を開いていたからわかった。割り込んで来た少女の姿を視認できた。  敵よりも鮮やかではないが、それでもルビアには見慣れた、美しい緑の三つ編みが揺れている。がら空きになった胴目掛けて振るわれる、緩やかな曲線を描く片刃の刃。 「おっとっと♪」  完全に不意を突いていたはずだ。だからこそ、攻撃の態勢を解除しのけ反るようにして斬撃を躱したことが驚愕だった。  後ろに倒れそうになる勢いで跳び、二度三度跳ねて優雅に着地するその姿はもはや芸術とすら評せそうだ。 「ルビア、大丈夫ですか?」  普段の間延びした声ではない、真剣な表情。わずかに首を縦に振って体を起こす。彼女が、ペリドットが助けてくれなければ間違いなく死んでいた。 「いや待て、ペリドットおまえ、盾を持ったやつを相手にしてたんじゃ!」 「です、ね……して、ました」  して『ました』。過去形での表現。  ペリドットの体が揺らぎ、上から吊るしていた糸が切れたように地面に倒れこむ。  そんな彼女の背後には藍色の髪の少女がひどくつまらなそうな顔で立っている。右手に持った盾を突き出した姿勢で。 「て、っめえ!」  首を斬り飛ばすつもりで斬撃を放つがあっさり射程範囲外へ逃げられてしまう。防御だけでなく小柄な体を生かしたすばしっこい動きも得意らしい。悔しさを滲ませてペリドットを倒した少女を睨み、 「きゃあっ!」  サフィの悲鳴が響き渡った。視線を巡らせると右肩を矢で射抜かれ、真っ赤な血を撒き散らしながら後ずさっているところだった。手からバスタードソードが落下し盛大な金属音をがなり立てる。  二歩三歩とバックステップで距離を取りつつ新たな矢を番えている。 「サフィっ!」 「だい、丈夫ですわ。ちょっと右肩に穴が開いた程度ですもの」 「強がるね。まあ? このコハク様がわざと急所を逸らしてあげてたからなんだけど?」  馬鹿にした顔でサフィを嘲笑う茶髪の少女にルビアは目が血走り視界が真っ赤に染まりだす。  こいつらは赦しちゃいけない。潰さなければならない。潰して斬って殴って砕いて、殺して殺して殺し尽さなければならない。害虫を野放しにしているわけにはいかない。
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