第四話~激突する刃~

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 女は今、シオンの剣を探していると言った。だがおかしい。シオンの剣とはこの場所そのものであり、渡してほしい、つまりこの場所を明け渡せということであればまだ理解はできる。到底渡す気など毛頭ないが言葉としては意味が繋がる。だがそれよりも先に言っていた。  妙ではないだろうか。探していると表現するのは、未だ目的のものを見つけられていないということになる。女がよほどの馬鹿でない限り言語の使い方を間違えることはないだろうしその線も薄い。つまりこの三人が求めているのは訓練所ではない。  敵が再度襲ってくる前に乱れた呼吸を整え、思考をまとめる。 「どこに置いてあるのかな? 早く教えてほしいなー♪」  ゆっくりと近寄ってくる女。藍色の少女と矢を番え弓を構えた茶髪の少女もすぐ後ろに続いている。ここで後ろに引くのは腹立たしい。せめてその場から動かず、鎌をかけることにする。本来こういった頭を使うことは不向きなのだが試す価値はある。 「どこにあると思う?」  額から浮き出る汗を垂らしながら考える。  どこに置いてある。つまり物だ。人ではない。賤しくも村人達から一時的とはいえ賜ったシオンの剣という二つ名を持った剣士のことではないのだ。  文字通りの剣なのか、あるいは名ばかりの別物なのか。 「そうねー。ここの武器庫か、もしくは偉い人の家……村長さんの家かしら? 正解はどこなの? はやく教えてよー♪」  ヒュンッ、と空気を裂き素振りをして見せる。その一撃の重さを見せつけたいのか笑顔を絶やさずもう一度振る。  武器庫の可能性の示唆。つまり武器か防具。  両者の距離、残り五刃。 「教えないと答えたら?」  諦めるとは流石に言うまいと腹を括る。 「決まってるよ」  うふ、ととても楽しげに微笑んだ。 「この村の人間、全員に聞いて回るわ。実力行使で♪」 「なっ……!」  絶句するルビアに対して女が重い刃を大上段から振り下ろした。危うく左右に体を分断されかけるが辛うじて背後に下がることで回避する。しかし、 「ぼくも。いる」  彼女の後ろから飛び出してきた藍色の少女に反応が遅れてしまった。致命的な察知ミス。回避、反撃、防御は不可能。  距離、零。
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