第四話~激突する刃~

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 心配ではなく、質問ではない。  ただの確認。だからこそ返事は想定していたようなものだった。 「はい。いただきます」  あーあ。内心で首を横に振る。 「あの小さな子、死んじゃうよ。だいたいカイヤ一人を相手にしたって勝てる見込みなんてないのにお姉様まで一緒にして、万に一つも勝機なんてないない」  馬鹿にした物言いに、しかしトパズは動じることなく普段通り、訓練で何度も繰り返し一紙のずれもなく再現できる構えを取る。 「心配してくれてありがとう。でもその前に、あんた自身の身を案じるべきとだけ言っておくわ」 「何? もしかしてコハクに勝つつもり?」  心底馬鹿にしてくれる。 「ルビアが、義姉にして兵長であるルビアが、わたし達があんた達を潰すって宣言した手前、そうしないわけにもいかないでしょ。もちろん、ルビアの言葉がなくとも潰すけど」 「できるものならやってみろ!」  言うなり矢を続けて二度放つ。狙われたのは半身に開いて前に出した右足と脇腹。ステップを踏んで体を射線から右に逸らし躱す。掠め飛んでいく矢を目で追わず、嫌な笑みを浮かべている小生意気な糞少女を鋭く睨みつけて観察する。 (コンポジットボウ。一刃と二針にやや足りないくらいの長さ。長距離よりも短距離射程で、速射性に優れる。湾曲した形状が特徴。表面に金属板を張り、わたしのレイピアと同じく握りにガードがある。近づかれた時にあの弓で戦うことも可能ってことね)  弓を観察し終え、それから全身を見まわし、両の脛にも金属の板が取り付けられていることに気付いた。 (足も使えるってことね)  牽制のつもりかもう一度矢を射られるが、今度は体を射線に対して左にずらすだけで回避する。弓を使う者を見るのはいつ以来だろうか。 「これだけ距離があって、自分に向けられているとわかっていれば目視で躱すことくらいできるわ」 「ばーか、おまえの力量を測ったんだよ。けどわかった。お前、コハクより弱い」  そう言うとコハクは一気に前へ飛び出した。予想外の動きにトパズは目を見張る。  弓、つまり射出武器は敵の攻撃可能圏外から一方的に攻撃できることが最大のメリットであり、一度一度の攻撃に準備を要するデメリットがある。剣を持った相手に対して弓使いが距離を詰めるのは愚の骨頂と言えるだろう。
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