第四話~激突する刃~

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 距離を詰める間にコハクは再び矢を番え、あろうことかトパズではなく上空へ向けて放った。なぜトパズではなくまったく関係のない方向へ飛ばすのか。思わず矢へ意識が逸れる。 「ばーか」  ハッとして視線を正面に戻した時にはコハクが肉薄していた。弓の弦を巻きつけた下端が喉元へ迫り、弓をレイピアで弾く。だがそれを見越していたのかコハクは笑みを深くし、視界の端で左足が持ち上げられるのを視認すると同時に、気づく。有効な防御、回避手段が潰されていることに。弓を弾くためにレイピアは体の左にあり、体勢も崩れている。後ろ、左へ跳んだところで躱しきれない。むしろバランスを崩して転倒、そのまま矢で射止められて終わりだ。  たった一本の矢で動きが遅れ、命取りとなった。愚かしいことである。  しかし、トパズは絶望はしていない。絶望するにはまだ早い。  トパズが右から襲いかかる攻撃に対しては決めた答えは。 「っ!」  コハクは初めて焦りの表情を浮かべ、突然右足を地面から離し、左足をトパズではなく真上に振り上げた。反動で上体は重心を軸にして後ろへ倒れ、空を見上げる形となったコハクの鼻先をレイピアが通り過ぎる。  蹴りと斬撃。その殺傷力は比べるまでもない。レイピアで首を狙われて、それでも蹴りを放とうとする者はいない。  右手一つで体を支えて後方へ逃げる軽やかな動きに敵ながら感心しつつも距離は開けさせない。すぐさま愛剣の届く範囲に捉え左から一閃する。片手と両足を地面について着地をしたコハクは弓の下部でそれをいなし、続けて放つ突きを弾いて対処した。 「そういえば、あんた達は旅をしてるんだっけ? この村に何の用があって来たのよ」 「コハク達は世界中に散らばる武器を集めてる。その内の一つがこの村にあるって聞いてやって来たんだよ」  トパズの質問に答えながら連続突きを弾き、躱し、いなすことで対応しながら何度も距離を開けるために後ろへ跳んでいるが、トパズがすぐさま肉薄してくるために本領を発揮できない。危なげなく防御しているがあまり余裕がなさそうなことは見て取れた。  コハクの話を聞いてトパズは手を休めずに、気を緩めずに眉を顰める。 「この村にそんな御大層なものがあると本気で思ってるのだとしたら、あんた達相当馬鹿ね」 「旅の噂を信じなかったら、何を信じるんだよ旅人がっ」
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