第四話~激突する刃~

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 反撃とばかりに繰り出される足を柄で逸らし、右下から斬り上げる。苦々しげに状態を逸らして躱したコハクは弓を持った手も使い地面に両手をついて体を支え、天地逆転した格好から体を捻り、トパズの頭に蹴りを振り下ろす。体を右にずらして下腹部を狙うが膝を曲げて下ろされた足の金属板に受け止められた。 「この村にシオンの剣って名剣があるってな」 「シオンの剣?」  妙なことを言う。あまりに予想の斜め上を行かれて動きが止まってしまった。その隙を逃さずコハクはすぐさま体をトパズから離れた場所まで両手で跳び、さらにもう一度宙返りすることで姿勢を正すと同時に距離を大きく開ける。 「シオン村に伝わる白刃の剣。それを渡しさえしてくれるならこの村に用はない」 「そう言われてもねえ」  眉を八の字にし左手で頬を掻く。シオンの剣とは実際に存在する剣ではない。そもそも武器どころか物ですらない。今いるこの場所こそがシオンの剣であり、持って行くなど不可能なのだ。  固有の何かとしての名前であれば、ルビアの二つ名としてだが、それを本人が認めず訓練所の名とした。時折訪れる商人がその話をどこかでし、様々な紆余曲折、歪曲、拡大を繰り返したのかもしれない。 「やっと辿り着いたんだ、絶対にもらう!」 「だーかーらー、そんな物はないんだって!」  そう言ってもコハクは諦める気はないのか、ギラつかせた目でトパズを睨み続ける。 「どうしても話さないなら、この村の人間全員死ぬぞ」 「……そう言われて、はいそうですかなんて答えるとは思ってないわよね?」  返事の代わりに矢を番えるコハク。戦意は変わらず猛っているらしい。ならば即座に両者間の開きを埋める。  矢が放たれてから躱したのでは遅い。一直線にコハクへ向かいはせず、左右に体を振り照準を合わせさせずに距離を詰める。さしもの弓の名手でも、そう忙しなく動かれては狙いが定まらないのか歯ぎしりして矢の先を左右に振る。伊達にシオンの剣で二番の走力を持っているわけではないのだ。 「ああもうちょこまかとっ」
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