第四話~激突する刃~

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 この言葉で理解する。今のはすべて彼女の策の内。敵の同情を誘い、油断させて反撃に出る騙し討ち。そしてトパズはまんまとその術中にはまったというわけだ。  情けない。敵に情けをかけている暇があるのならさっさと殺せばいいものを。自分の甘さが自身を殺し、さらにはダイチを危険に晒し、村に危機を引き寄せる。歯噛みしてどうにかコハクを蹴り飛ばせないかと足を動かそうとするが、左目から距離四紙まで近づけられた鈍く光る矢じりがそれをとどまらせる。 「万事休すだな。さて、お姉様達も遊んでるみたいだけど、そろそろこっちは終わらせて村に行かせてもらうぞ」  じゃあな、と。告げ返された死の宣告に。トパズは目を閉じることすら敵わず、視界にはないずっと左手のほうで剣戟が鳴り響き、死を前にして緩やかになった時間の中で見た。コハクの右手が矢を放し、弦がゆったりとトパズの目へ細い凶器を押し込もうと力み、トパズの金眼を抉って頭蓋を貫通し、地面へ縫い付けようとする――、  前に横合いから凄まじい速度で飛んできた丸い何かが、コハクの矢を半ばからへし折り横へ弾き飛ばした。 「……はっ?」  数瞬遅れてコハクが不可解だという表情で声を漏らし、首を横へと向ける。ガランガランとけたたましい金属音がし、トパズもそちらへ目を向けると、二十刃ほど先を円形の、やや球面を模した形の金属板が転がっていくところだった。 「あれってカイヤの……?」  コハクが呆然と呟いたことでトパズもそれが敵の内の一人、一番幼い少女が持っていた盾の一つだと気づく。コハクはバッと逆を睨み、しかし目を丸くするとトパズの上から飛び退いた。直後、トパズの上、コハクがついさっきまでいた場所を再び剛速球で円盤が過ぎ去る。風切り音すら奏でて飛ぶそれは壁に激突し、わずかだが削り落とす。訓練のために建てられた建物の外壁はそれなりに丈夫に出来ている。にも拘らず、小さな盾はぶつかった衝撃だけでそれを剥離した。 「トパズさん、いつまで寝ているんですか?」  地面の上で目を丸くし、冷や汗までかいているコハクを視界に入れてただ倒れ伏していたトパズは体を起こし、盾が飛来してきた場所、剣戟がする方へと首を巡らせた。
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