第四話~激突する刃~

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 まず視界に入ったのは、血だまりに沈む真っ赤な義姉。赤黒くテカテカと光る壁に刺さったままの矢は半ばで折れ、地面にそれらの一部だった思しき矢羽のついた棒が二つほど転がっている。仰向けに寝かされたルビアは苦しそうな顔を浮かべて気絶している。  次に視界に入ったのは藍色の髪をした、コハクと同じく奇抜な黒衣を身に纏った少女。俯せに倒れて顔を逆に向けているためにわからないが、どうやら彼女も気を失っているらしい。持っていた二つの小さな盾はその手にはない。  最後に見たのは、少女と女性。重い長物を軽々と振り回すエメラがそこにおり、その凄まじい怪力と綺麗な剣筋には状況にそぐわないながらも感心してしまう。しかしその表情はずっと見せていた余裕の笑みはなく、汗を額に浮かべ、必死に愛武器を振っている。時折伸びてくる喉への攻撃を長い柄で受け止める度に表情が硬くなっているのが見て取るようにわかる。  そして彼女に焦りの表情を浮かべさせている、黒髪の少女はと言えば左手に模造刀を握りしめ、微笑みながら迫りくる鋼の嵐をことごとく掻い潜っていた。重武器の弱点である振り切った後に停止する隙を狙って何度も喉元へ左手のみで突きを放っているのは、模造刀であるがゆえに斬撃力を生かせないため、急所に一点集中の攻撃を加えることが一番だと考えたからだろう。ただし、それらのすべては。  視線を敵には一度も向けず、ずっとトパズを見つめながら、だが。 「ダイチ、あんた……」  垣間見たダイチの強さ。相対して感じた力。それはこんなものではなかった。エメラほどの強者を相手に、よそ見をしながら戦えるほどの力を感じはしなかった。この状況でどうして絶句をするなと言えようか。しかしダイチ本人が微笑を崩さずに言った言葉に我に返る。 「殺さなくていいんですよ」  ゆっくりと起き上がる自分の中にあった痺れが薄れていく。 「トパズさんなら、その人を殺さずに倒せます」  無意識下に在った痺れの理由が消えていく。 「だから」  だから、もう大丈夫。  義妹の声に背中を向け、呆然としている少女に相対した。一つ息を吐き、それから確固たる意志で睨み、告げる。 「遠慮なしにぶっ飛ばしてください」 「遠慮なしにぶっ飛ばすわ」  義妹と同じ想いを胸に、第二ラウンドへと飛び出した。
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