第五話~決心する姉~

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 時は少し遡り、トパズの前にコハクが相対している頃。ダイチは壁の上からひょいっと飛び降り、ルビアの前に着地をする。それから離れた場所で固まっている、気絶や負傷した少女達を見やり、偃月刀を担ぐ女性と二つの盾を構える少女を見た。 「義姉や仲間を随分と可愛がってくださったようで」 「いいえー♪ ちょっと聞きたいことがあったのにいきなり襲って来たから、少しばかり撫でてあげただけよ?」 「謙虚な方ですね。それではこちらも相応のお礼をさせていただかないと割に合いません。借りを作るのは好きではありませんから」  そう言うや否やダイチはルビアの眼前に立ち、右肩に刺さる矢を握り、軽く跳んで膝蹴りを入れた。両手に支えられた矢はその中央に重い衝撃を受けてあっけなく折れる。そしてそのままにとどまらずダイチは蹴りの勢いのまま後方へ宙返りし、その途中でルビアの左肩を貫いている矢を握り、落下しながら同様にしてへし折る。  素早く身を捻って両足で着地したダイチはルビアの体をそっと引き、壁に縫いつける棒から抜くとゆっくり地面に下ろした。傷を見下ろし、ルビアの体力を鑑みてもう少し余裕があることを悟ると、目を丸くしている少女と女性に視線を戻した。  ゆったりとした動作で鞘から鈍色の模造刀を抜き出し、無造作に二人に突きつける。 「さて、どちらからやりますか? それとも同時に? それとも、殺(や)り合いを望みで?」  ゾクッっと。カイヤの背筋に冷たいものが走る。黒髪の少女に変化はない。変わらず笑みを浮かべているが、本心は怒りを抱いていることぐらいはわかっていた。だが、今のは何だ。少なくとも八刃は距離がある相手に、まるで喉元に剣を突きつけられたかのような恐怖を覚えさせられた?  咄嗟にエメラの前に出てカイヤは盾を構える。小さな盾による変幻自在の動きは幾度となく敵の動きを封じ込め、撹乱し、無力化してきた。常に隙を見せて敵を誘い、そこを突くというのがカイヤの基本的な戦闘スタイル。だが今ばかりは全力で護りの姿勢に入る。背後にいる、尊敬し敬愛する姉に情けない姿は見せたくはないが、戦士としての経験と記憶が警鐘を鳴らしていた。  隙を見せれば、反撃をするより早く潰される、と。しかし、エメラの傍で防戦は拙い。  漆黒色に陽光を反射する、黒曜石のような深い闇を湛えた瞳がカイヤを見据えた。
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