第五話~決心する姉~

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「先にあなたからですか?」  言外に問われる。あなたからやられますか、と。  だが、恐怖がどうした。死に直面したことはかつてだってあった。あの日、エメラとコハクに出会ったあの日に死への恐怖は嫌というほど覚えた。今更なんだ。  今はこの盾を大好きな姉に捧げると誓っている。ここで壁とならなくてどうして彼女の、彼女達の妹と名乗れよう。 「行く」  短く宣言し、前へ飛び出す。少女は微動だにせずただ待っている。それを油断と取りコハクは姿勢を低くして突進した。地面と水平に向けられた打刀の下を掻い潜り、しかし上から振り下ろされても大丈夫なように左の盾を頭上に掲げながら右の盾を少女の胸へ叩き込む。間違いなく回避できないタイミングだ。恐怖を感じた理由はわからなかったが、なんてことはない、ただの子供だった。  などということはなく。  寸でのところで少女は身を引き横へと跳び、行動不能に至らしめる一撃を見事に躱して見せた。さらにそれだけに終わらず、左手に持っていた上に掲げた盾を蹴り上げてしまう。手から離れたそれはクルクルと宙を舞い、パシッと敵の手に渡ってしまった。華麗な武器排除(ディスアーム)をして見せた少女は右手で小さな盾を弄び、何を考えたか左手に握っていた打刀を背中の鞘に戻してしまう。  急いで姉の前まで戻り、敵の不可解な行動に眉を顰めた。 「何。考えてる」 「いえ、盾を持つのは初めてで少々興味があったんです」 「そこ。違う。剣。しまった」 「ああ、不要だと判断しましたから」  表情には出さないが頭に血が上る。ここまで舐められて腹が立たないわけがない。確かに見事に盾を奪われてしまったのは事実だが、先のは少なからず油断があったせいだ。次は慢心なく一撃を叩きこんでみせる。相手は今武器を持たず、こちらは先方の攻撃を防ぐ必要性が落ちた。つまり防御のための盾はなくとも構わない。 「カイヤ、あたしも参戦するわ」  後ろから聞こえて来る姉の言葉。耳にするだけで幸福感に溢れ、今すぐ姉と共に床に入りたい気分になるが、気を引き締め、首を横に振って再び飛び出す。自分と同じか、それよりも幼そうな少女相手に負けるはずがない。いったいどれだけの修羅場を潜り抜けてきたと思っているのか。こんな田舎でのんびり剣の修業をしている相手に負けるはずがあろうか。
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