第五話~決心する姉~

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 眼前まで到達するとカイヤは再び胸元へと盾を突き出す。黒髪の少女はそれを右へ体をずらすことで躱そうと動いた。直後にコハクは盾を引き、身体を反転。少女が逃げようとしている右側から裏拳のごとく盾を薙ぎつける。今の動きでこの攻撃に対処する方法はないはずだ。もちろんエメラやコハクは何らかの方法で防御、回避、反撃をして見せることは想像に難くないが、こんな小さな女の子にそれだけの技術と反射神経、身体能力があるはずがない。  視界に入るより先に盾越しに鈍い感触が伝わる。  取った。 「なるほど、シールドバッシュってやつですね。衝撃波で体を貫く、ですか」  遅れて聞こえた声に驚愕し、ややして視界に入った事実に愕然とする。少女はどうやったのか、今の一撃を掌で受け止めていた。  彼女が告げたシールドバッシュは小柄な体でも最大限の威力を発揮できる技術だ。ヒットする瞬間に力を込める、単発で力を発揮するこれは一時的にだがエメラの一撃をも凌駕することさえある。何度も鍛錬を重ねタイミングを体で覚えるまでに至った技の打つ瞬間を間違えたはずはない。しかし、現にカイヤ以上に小さい少女は片手で盾を受け止めている。 「十分強いです。ただ、『今のわたし』を相手にするにすら足りません」  直後。体が揺れた。いや、揺れたように感じたというのが正確だろう。あっという間に闇に飲まれる意識が記憶しているのはそれだけだった。 「っと」  左手に握ったバックラーでカイヤの胸元を叩き、気絶させたダイチは素早く彼女の体を抱えて転倒することを防ぎ、そっと地面に下ろした。 「あれだけ殺気を出してた割には優しいんだね?」  偃月刀を担いだまま立ち尽くしていたエメラは妹を丁寧に扱う小さな少女を見下ろして言う。 「斬ってほしいならすぐさまそうしますが?」 「冗談に聞こえないからそういうのはやめてほしいかな」  若干冷や汗をかきながらエメラは返答する。わかっている。この少女が目の前で実践して見せたこと。カイヤが必殺のタイミングで打ったシールドバッシュを、衝撃を吸収するようにして手を引きダメージを掻き消し、その技をそっくりそのままカイヤに返して見せた。 「念のために聞くけど……お嬢さん、盾を握ったのは本当に初めてー?」
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