第五話~決心する姉~

5/39
前へ
/200ページ
次へ
 いやーな想像をしながら口にした問いに少女はニッコリと笑い、 「今初めてです」  想像が的中して胃が絞めつけられた。初めて持ち、受けた技を瞬時に理解し自分のものにした。この子が見た目通りの年齢であれば十二年かそこらでそれだけの戦闘技術、知識、感覚を習得していることになる。天才、いや、もはや天才というレベルではない。  化け物。かつて存在したとされる、人知を超えた異形の怪物を彷彿とさせる畏怖の権化。  勝てるのだろうか。そんな不安が頭をもたげる。 「次はあなたです、が……何かをお探しでしたか?」 「うん。シオンの剣の在り処を知りたいの♪」  あくまで普段通りに振舞う。ここで恐怖を表に出せば、それだけで自分が保てなくなりそうだった。よくもこんな恐ろしい少女を相手にカイヤは立ち向かえたものだ。あるいはカイヤの時は殺気すらも加減していたのかもしれないが。 「シオンの剣……それはどんな物ですか? わたしはこの村に来てまだ日が浅いので、さほどシオン村に詳しくはありませんから」  カラン、と盾を落とし、ゆったりと肩から打刀を抜く。よくよく見ればそれには刃(は)がない、ただの模造刀であることがわかった。もちろん強度は本物と遜色ないだろうが、絶対的に攻撃面では劣化している。 (とことん馬鹿にされてるのねー……)  内心歯噛みしつつ、偃月刀を構えながら質問に答える。 「このシオン村に伝わる伝説の剣。白く輝く刃(やいば)はすべての闇を斬り払い、希望を導く光となる。って伝承があるそうなんだけどー……そっちの兵長さんは知らないみたいなのよねー」 「そうですか」  言うが早いか、少女は地面を一蹴りし一直線にエメラへ迫るとその喉元へ切っ先を突き放った。油断をしていなかったからよかったものの、ほんの僅かでも彼女に対する警戒心が足りていなければ刃のない切っ先が己の首を貫通していたに違いない。首を横に振り、掠めた感触に寒気を覚えながら重く強い一撃を少女の脳天へ振り下ろす。 「シオンの剣。この村ではその名で呼ばれるものが二つあります」  体を横にずらし紙一重で躱される。振り下ろしの姿勢から一転薙ぎへと切り替えるが、上体を逸らした低身長の彼女には当たらない。エメラの重い一撃を受ければそれだけで彼女の武器はへし折れる。それがわかっているからこそ回避のみに徹している。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加