第五話~決心する姉~

6/39
前へ
/200ページ
次へ
「ひとつはわたしの姉にしてこのシオン村の平和を預かる兵長、ルビアさんです」  しゃべりながら少しも臆した様子を見せずに少女は再度突きを放つ。水が流れるがごとく不自然さのない動きに反応が遅れ、躱しきれずまたも首に赤い線が引かれてしまった。  それを振り払うように偃月刀を薙ぐがすぐさま打刀は引っ込められ当たらない。続けて振り下ろしから三度突きを放つが、どれものらりくらりと回避される。見事な足捌きと強靭な体幹が難しい姿勢の維持を許し、そのことごとくの隙間に身を滑り込ませている。 「ただ、これは村人達がルビアさんをそう呼んだだけで本人が認めず、そうしてその名をもらったのが二つ目である、この訓練所です」  把尖で胸元を突こうとするもやはり当たらない。棒術のように柄を振り回すが、どれだけ攻勢に出ても少女は冷や汗一つ見せずに対処して見せた。時折閃く突きが恐ろしいまでに正確で、エメラの十の斬撃よりも破壊力を感じさせる。 「だから、この村にはそんな伝承はないかもしれませんね」  ただ、と。ダイチは告げ、 「あなた達が探している剣。わたしは知っています」  突然。足元に落ちていたカイヤのバックラーを蹴り飛ばした。目の前にいるエメラにではなく、ずっと右の方へと。反射的に目がそちらへ向きそうになるのを堪え、迫る凶刃を偃月刀の柄で受け流す。 「今のは賢明な判断ですね。こちらの義姉にもあなたのように目前の敵に対する警戒をもう少し持ってほしいものです」  などとのたまう少女は、首を横に向け、視線を顔のまままっすぐに向けていた。その方向にいるのはコハクと、トパズという少女達のはず。まさかそちらにちょっかいを出したのか。眼前の少女が見据える二人がいるであろう方向から何やら声が聞こえるので、何かが起こったことは理解できる。その上で目は全くエメラを捉えていないはずなのに小さな剣士は的確に首を狙ってくる。もう一度柄で弾き首を断ち斬らんと偃月刀を振るうが、こちらを見向きもせず掻い潜り再度喉へ。 (なんなのこの子は……!)  体を逸らして軌道から逃れ、把尖で打刀を握る手を狙うがあっさり躱される。すぐさま袈裟斬りに振り下ろすもやはり当たらない。まったくこちらを見ていないというのに。 「わたしの体の一部……いえ、わたしに傷をつけることができたなら、あなた達が探している物の場所を教えましょう。……と、その前に」
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加