第五話~決心する姉~

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  「せあっ!」  間合いを詰めたトパズは渾身の一撃を込めて細剣を突き出した。呆けていたコハクは我に返り、身体を貫こうとする刃を弓で必死に弾く。返す刃で弓の端で肩を狙うが、それより早く次撃が迫る。 「くっ!」 「ほらほら、どうしたのよさっきまでの威勢は。お得意の騙し討ちとやらはしないのかしら?」 「……」  コハクは無言のまま歯噛みする。騙し討ちは基本的に一度しか効果がない。二度目以降はそれが嘘だとわかっているために利かないのだ。 「ほらほらほら、いつまでも防御に徹してたら勝てないわよ?」  突きの嵐に見舞われ必死に弓で弾き足の板で防ぐがそれで手一杯だった。接近戦闘ではわずかながらコハクの方が劣っていることは、悔しいが認めざるを得ない。だがどうだろう、今までよりもトパズの顔は生き生きとしており、手数は増え、その速度も精度も段違いに上がっている。前の状態でわずかに負けていたというのに、これでは攻勢に出るどころの話ではない。 「逃がさないわ」  バックステップで距離を取ろうと思案した瞬間に看破された。思わず目を見開き焦りを胸中に抱きながら、それでも矢筒から矢を抜き取り、足で防御しつつ番える。  接近戦でも弓矢の本分を使えるようにと編み出した高速連射(クイックシュート)。素早く番えた矢を間近で放たれれば躱す術はない。鎧を纏っていないトパズの胸を貫くべく矢を放ち、しかしそれは彼女の剣によって斬り払われてしまった。 「嘘っ!?」 「わかりやすいのよあんたは!」  刃が閃く。反射でのけ反ると前髪が数本散った。視線を下げ敵を見れば、もう次の攻撃に入るべく剣を引いている。早すぎて対応が追いつかない。弓を体の前に置くと鈍い衝撃が走り、そのまま地面へと倒された。受け身が取れず肺の空気が一気に叩き出され、息が詰まる。  そして、しかめっ面になったコハクの首元にトパズの剣が添えられた。 「わたし達の勝ちね。抵抗してもいいけど、あんたの信じるお姉様とやらもあっちでのびてるわよ」 「えっ!?」  思わず首を回してエメラがいるであろう方向へ目を向ける。首に添えられた鋭い剣がその首を傷つけそうになりトパズが慌てて離したが、コハクはそのことに気づかず、離れた場所で倒れている姉と妹に意識が吸い込まれた。 「そんな……お姉様まで?」
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