第五話~決心する姉~

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 倒れている二人を放置し、他の仲間達の助けを借りて傷ついた義姉を運ぶ黒髪の少女に視線が向く。あの二人を、あんな小さな女の子が一人で撃破したというのか。それも、コハクを一人相手取っていたこの金髪女よりも早く? 「言ったでしょ。うちの義妹を案ずるより自分の心配をしろって」  さも当然と言わんばかりに剣を仕舞う。負けは見えた。今ここで攻撃をしたとしても、既にエメラとカイヤが敗北を喫し動けない。無暗に敵の怒りを買うようなことをすれば二人の身すら危うくなる。  無敗を誇って来た盗賊団もここで終わりか。  観念し、コハクは弓を手放した。 「……悪いことをしたとは思ってる。でも、殺すならコハクだけにして。二人は逃がしてほしい」 「うーん、正直、三人とも顔面ボコボコになるまで蹴り続けたいくらいはらわた煮えくり返ってるんだけど……」  さらりと恐ろしいことを言い、 「それを決めるのは、村の守護者であるルビアだからね。それまでは大人しく牢の中に閉じ込められてなさい」  背を向け義姉を運ぶ義妹の元へ走っていく金髪の背中を見送り、コハクは天を仰いだ。捕えると言いながらそのまま放置していくとは。余程の馬鹿なのか、あるいは逃げ出さないと踏んだ上でのことなのか。もちろん姉や妹を置いてここから去る気は毛頭ない。  復帰した兵士の一人に手を縛られ、腰に提げていた矢筒を取り外されて敷地内にあった一番小さな建物へと連れて行かれる。中へ入ると、そこには格子で区分された部屋がいくつか見当たり、その中の一つへ押し入れられた。少し遅れて姉と妹も同じ牢の中に連れ込まれ、兵士は鍵をかけて出ていく。 「どうなるんだろ、コハク達」  姉妹にこれといった外傷が見当たらず、ただ気絶しているだけらしいことを確認して一先ず安堵したコハクはボソリと溢した。  盗賊業を続けてきて一年と少し。これまで幾度も村や町を襲撃し、目的の物を求めて戦い続けてきた。必要とあれば騙し、殺し、破壊した。悪いことをしている自覚はある。だからこそ捕まるわけにはいかず、一度も捕まらなかった。捕縛されれば処刑、よくても首都に連行され、やはり殺されることは明白だったからだ。  姉妹と力を合わせればどんな困難も切り抜けられると自負していた。そして今日、それが覆された。
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