第五話~決心する姉~

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 姉が最強だと信じて疑わなかったコハクには未だ信じられない。  尤も、たとえ姉が最強でなかったとしても彼女についていく心に変化など微塵もない。  自分達がどれだけ周りに被害を及ぼし、その結果悲しむ人がいたとしても、これからもやることに変わりはない。その決意は、初めて人を殺した時に凝固している。 「だから、後悔はしてないよ。お姉様に付き従ってきた日々が、間違いだったなんて思わない。カイヤと一緒に走ってきた日々が間違いだったなんて誰にも言わせない」  信じたものを貫くために。多くの死を背負う覚悟をした姉と妹を見つめ、姉の頬に口づけし、妹の頭をそっと撫でた。 「ほんと、コハク達って奇異な出会いだったよな。滅多にない場所で、滅多にない生存率で、滅多にない出会い。奇跡か運命か、どっちにしろ素敵な二人に会えてコハクは幸せだったよ。あのままあそこで朽ちるよりも、お母さん達の敵を取る、そのために生き続けて、二人に愛してもらえて……ずっとずっと、嬉しかった。生きる目的をもらえて、ほんとに感謝してる」  壁に凭れ、天井を仰ぎ見る。逃げられないようにと石造りの強固な壁と同質で、申し訳程度に開けられた空気通しも格子がしっかりとはまり逃げ出せない。 「二人を助けてもらうには、お願いするしかないかなあ」  どんなに叫んでも奴はコハクの声に耳など貸さず、目の前で命を散らされた両親を思い出し顔を顰める。いつまで経ってもこの記憶は鮮明で色褪せることを知らない。だからこそ、こうして弓を握り続けられる。いや、握り続けることができた、か。  もう、握ることはないだろう。恐らくは二度と姉妹に触れることも。 「お姉様には命を救ってもらって、カイヤには旅の途中で何度も助けられたよね。……だから」  開けられた扉に視線を向ける。そこには小さな影が二つ立っていた。 (恥もプライドも関係ない、二人だけは絶対に助けてもらうから)  やって来たのはエメラに一番最初に気絶させられた水色のサイドポニーの少女と、エメラとカイヤを一人で倒した黒いロングヘアーの少女だった。二人は腰と背中にそれぞれ武器を携えており、牢の奥でエメラとカイヤがまだ眠っていることを確認すると、小さな声でコハクを呼び、牢の外へ連れ出した。
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