第五話~決心する姉~

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 今なら逃げるチャンスかもしれないが、二人はまだ意識を失っているし、水色の方はともかく黒い少女を目の前にしてうまくやれるとは到底思えず、今は黙って従うことにした。  建物を静かに出、壁の向こうが何やら騒々しいことに気づくが二人は何も言わずに敷地内の一番大きな建物へと連れていく。怪我人がいることを知って慌てているのかもしれない。急所は外したし治癒も比較的早く済むはずだが大怪我には変わりない。 「そこへ座ってください」  案内された建物の小さな一室に通され、小さなテーブルを挟むようにして設けられた二つの椅子の片方を示さた。黒い少女に一つ頷き黙って腰を下ろす。正面には水色の少女が座り、鋭い眼差しで正面から見据えてきた。十三、もしくは十四歳くらいだろうか。幼い外見に似合わずその眼は剣のように鋭い。 「言いたいことは山のようにある」  出会い頭の応答のことだろう。だがコハクには謝罪をする気はない。しかし相手の気分を害せばその分二人が助けてもらえる可能性が遠のいていく。意地を捨て、頭を下げて謝罪を口にしようとするが、 「でも、それは今はどうでもいい。回りくどいことはなくていいから、全部正直に話して。どうしてこの村を襲った……訂正、襲いに来た?」 「……旅の途中で、この村に伝説の剣があるって聞いたからだよ」 「伝説の剣……」  水色の少女は何か思うところがあるのか眉を顰めて視線を下げる。 「白く輝く刃(やいば)はすべての闇を斬り払い、希望を導く光となる。そういう伝承を聞いたそうですよ、マリンさん」  コトン、とテーブルの上にコップを置きながら黒髪の少女が静かに言った。 「ダイチ?」 「彼女達のお姉さんが、わたしにそう教えてくれました。喉が渇いていたらと思いまして。どうぞ」  黒い目をした少女、ダイチの発言の後半はコハクに向けられたものだった。視線を落として目の前に置かれたコップを見る。縁からやや下まで注がれた透明な水が、今は随分とおいしそうに見えた。しかし……。 「お二人が目を覚ましたら、彼女達にも水をお渡しします。ですから気兼ねなく」  気にしていたことをズバリと言い当てられて目を見張る。思わずダイチを見ると、彼女は微笑みを浮かべて見返してきた。年下とは思えない、大人の慈愛に満ちた笑みだ。
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