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一人だけいい思いをするわけにはいかない。そう考えていたが彼女の言葉によってひどく喉が渇いていることを自認する。相手の好意を無碍にすればいい印象はない。そうなれば逃がしてもらえる可能性もまた下がると自分に言い聞かせ、小さく感謝の言葉を述べて水を口にする。キンキンに冷えた水が食道を下って胃へと落ち、すっきりした喉越しと刺激にすうっと目が冴える。旅路で買い、川で汲んだ水よりもおいしいとさえ思える。死を前にして最高の味わいを得たいという体がそう判断しているのかもしれないが。
「何か心当たりが?」
「うん、少しね」
ダイチに問いかけられたサイドポニーの少女、マリンは首を縦に振る。デッドオアアライブの状況にも拘らず一年間も探していた物の話となると思わず耳を澄ましてしまう。
「サフィの家にあった書物の中に、そんなフレーズがあった気がする。退魔の剣、だったかな」
「本当にあったんだ……」
呆然と呟くコハク。結局は失敗したが、この旅の目的の物まで辿り着けたのだということに僅かな感慨を覚える。
「まあ、すごく錆びついてて使い物にならない状態ですけどね」
あはは、とダイチが何かとんでもなく重要なことを口にする。
「え?」
コハクがダイチを凝視しているとマリンも同じようにダイチを見た。だが本人は肩を竦めるだけで、
「そんなことより、今はこの人から話を聞きましょう。コハクさん、でしたか?」
「あ、うん……」
優しく名を呼ばれて素直に返事をしてしまう。
「貴女達はどうしてその伝説の剣とやらを探しているんですか? それも、現地の人々を襲ってまでして求めている。すごいものだというのは呼び名からして察しますが、そこまでして必要とする理由。襲われたわたし達にはそれを聞く権利があると思いますが」
ダイチの言うことは正論だ。それにここで首を横に振っても何も好転しないし、第一隠さなければならないことでもない。混乱を招きかねないことは確かだが、どうせ信じてもらえるはずもないのだから。
「魔剣を砕くためだよ」
「魔剣?」
マリンが首を傾げた。それに対してコハクは頷く。
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